次の朝早く、ハリーは二人が目を覚ます前にテントを抜け出し、森を歩いて、いちばん古く、節くれだって反発力のありそうな木を探した。そしてその木陰に、マッド‐アイ・ムーディの目玉を埋うずめ、杖つえでその木の樹皮じゅひに小さく「」と刻きざんで目印にした。たいした設しつらえではなかったが、マッド‐アイにとっては、ドローレス・アンブリッジの扉とびらに嵌はめ込まれているよりはうれしいだろうと、ハリーは思った。それからテントに戻り、次の行動を話し合おうと二人が目を覚ますのを待った。
ハリーもハーマイオニーも、ひと所にあまり長く留まらないほうがよいだろうと考えたし、ロンもそれに同意していた。ただ一つ、次に移動する場所は、ベーコン・サンドイッチが容易に手に入るところ、という条件つきだった。ハーマイオニーは、空き地の周りにかけた呪じゅ文もんを解とき、ハリーとロンは、キャンプしたことがわかるような跡あとを地上から消した。それから三人は、「姿すがたくらまし」で小さな市場町の郊外に移動した。
低木の小さな林で隠された場所にテントを張り終え、新たに防ぼう衛えいのための呪文を張り巡らせたあと、ハリーは「透とう明めいマント」を被かぶり、思いきって食べ物を探しに出かけた。しかし、計画どおりにはいかなかった。町に入るか入らないうちに、時ならぬ冷気れいきがあたりを襲おそい、霧きりが立ち込めて空が急に暗くなり、ハリーはその場に凍こおりついたように立ち尽つくしてしまった。
「だけど君、すばらしい守しゅ護ご霊れいが創つくり出せるじゃないか」
ハリーが手ぶらで息せき切って戻り、声も出せずに「吸きゅう魂こん鬼きだ」と、ただ一言を唇くちびるの動きで伝えると、ロンが抗議こうぎした。
「創り出せ……なかった」
ハリーは鳩みず尾おちを押さえて、喘あえぎながら言った。
「出て……こなかった」
唖然あぜんとして失望する二人の顔を見て、ハリーはすまないと思った。霧の中からスルスルと現れる吸魂鬼を遠くに見た瞬間しゅんかん、ハリーは身を縛しばるような冷気に肺を塞ふさがれ、遠い日の悲鳴ひめいが耳の奥に響ひびいてきて、自らの身を守ることができないと感じた。それはハリーにとって悪夢のような経験だった。マグルは、吸魂鬼の姿を見ることはできなくともその存在が周囲に広げる絶ぜつ望ぼう感かんは、間違いなく感じていたはずだ。目のない吸魂鬼がマグルの間を滑すべるように動き回るのも放置ほうちし、ハリーは、ありったけの意思の力を振ふりしぼってその場から逃げ出すのがやっとだった。
「それじゃ、また食い物なしだ」
「ロン、お黙だまりなさい」
ハーマイオニーが厳きびしく言った。
「ハリー、どうしたって言うの なぜ守護霊を呼び出せなかったと思う 昨日は完かん璧ぺきにできたのに」
「わからないよ」