ハリーは、パーキンズの古い肘ひじ掛かけ椅い子すに座り込んで、小さくなった。だんだん屈くつ辱じょく感かんがつのってきた。自分の何かがおかしくなったのではないか、と心配だった。昨日という日が、ずいぶん昔に思えた。今日は、ホグワーツ特急の中で、ただ一人だけ気絶した十三歳のときの自分に戻ってしまったような気がした。
ロンは、椅子の脚あしを蹴け飛とばした。
「なんだよ」
ロンがハーマイオニーに食ってかかった。
「僕は飢うえ死にしそうだ 出血多量で半分死にかけたときから、食った物といえば、毒茸どくきのこ二本だけだぜ」
「それなら君が行って吸きゅう魂こん鬼きと戦えばいい」ハリーは、癇かんに障さわってそう言った。
「そうしたいさ。だけど、気づいてないかもしれないけど、僕は片腕を吊つっているんだ」
「そりゃあ好都合だな」
「どういう意味だ――」
「わかった」
ハーマイオニーが額ひたいをピシャッと叩たたいて叫さけんだのに驚いて、二人とも口をつぐんだ。
「ハリー、ロケットを私にちょうだい さあ、早く」
ハリーがぐずぐずしていると、ハーマイオニーはハリーに向かって指を鳴らしながら、もどかしそうに言った。
「分ぶん霊れい箱ばこよ、ハリー。あなた、まだ下げているでしょう」
ハーマイオニーは両手を差し出し、ハリーは金の鎖くさりを持ち上げて頭から外はずした。それがハリーの肌はだを離はなれるが早いか、ハリーは解かい放ほうされたように感じ、不思議に身軽になった。それまでじっとりと冷や汗をかいていたことも、胃を圧迫する重さを感じていたことも、そういう感覚が消えたいまのいままで気づきもしなかった。
「楽になった」ハーマイオニーが聞いた。
「ああ、ずっと楽だ」
「ハリー」
ハーマイオニーはハリーの前に身を屈かがめて、重病人を見舞うときの声とはまさにこうだろう、と思うような声で話しかけた。
「取とり憑つかれていた、そう思わない」
「えっ 違うよ」
ハリーはむきになった。
「それを身につけているときに、僕たちが何をしたか全部覚えているもの。もし取り憑かれていたら、自分が何をしたかわからないはずだろう ジニーが、ときどき何にも覚えていないことがあったって話してくれた」
「ふーん」
ハーマイオニーは、ずっしりしたロケットを見下ろしながら言った。
「そうね、身につけないほうがいいかもしれない。テントの中に保管しておけばいいわ」
「分ぶん霊れい箱ばこを、そのへんに置いておくわけにはいかないよ」ハリーがきっぱりと言った。「なくなったり、盗まれでもしたら――」
「わかったわ、わかったわよ」
ハーマイオニーは自分の首に掛かけ、ブラウスの下に入れて見えないようにした。
「だけど、一人で長く身につけないように、交代でつけることにしましょう」
「結けっ構こうだ」ロンがいらいら声で言った。「そっちは解決したんだから、何か食べる物をもらえないかな」
「いいわよ。だけど、どこか別のところに行って見つけるわ」
ハーマイオニーが、横目でちらっとハリーを見ながら言った。
「吸きゅう魂こん鬼きが飛び回っているところに留まるのは無意味よ」