ほかには何の糸口もなく、ハリーたちはロンドンに行き、「透とう明めいマント」に隠れてヴォルデモートが育った孤こ児じ院いんを探した。ハーマイオニーは図書館に忍び込み、そこの記録から、問題の場所が何年も前に取り壊こわされてしまったことを知った。その場所を訪れると、高こう層そうのオフィスビルが建っているのが見えた。
「土台を掘ってみる」ハーマイオニーが捨すて鉢ばちに言った。
「あいつはここに分霊箱を隠したりしないよ」
ハリーには、とうにそれがわかっていた。孤児院は、ヴォルデモートが絶対に逃げ出してやろうと考えていた場所だ。そんなところに、自分の魂たましいのかけらを置いておくはずがない。ダンブルドアは、ヴォルデモートが隠し場所に栄光と神秘しんぴを求めたことを、ハリーに示してくれた。こんな気の滅め入いるような薄うす暗ぐらいロンドンの片かた隅すみは、ホグワーツや魔ま法ほう省しょう、または金こん色じきの扉とびらと大だい理り石せきの床を持つ魔法界の銀行、グリンゴッツとは正反対だ。
ほかに新しいことも思いつかないまま、三人は安全のために毎晩場所を変えてテントを張りながら、地方を巡り続けた。毎朝、野宿のじゅくの跡あとを残さないように消し去ってから、また別の人里離はなれた寂さびしい場所を求めて旅立った。ある日はまた森へ、崖がけの薄暗うすぐらい割れ目へ、ヒースの咲さく荒地へ、ハリエニシダの茂る山の斜面へ、そしてある日は風を避よけた入り江の小石だらけの場所へと「姿すがた現わし」で移動した。約十二時間ごとに、分ぶん霊れい箱ばこを次の人に渡した。まるで、音楽がやんだとき皿を持っていると褒美ほうびがもらえる「皿回し」ゲームを、ひねくれてスローモーションで遊んでいるかのようだった。ただ、褒美にもらえる物が、十二時間のつのる恐れと不安なので、ゲームの参加者は音楽が止まるのを恐れた。
ハリーの傷きず痕あとは、ひっきりなしに疼うずいていた。分霊箱を身につけている間がいちばん頻ひん繁ぱんに痛むことに、ハリーは気づいた。ときには痛みに耐たえかねて、体が反応してしまうこともあった。
「どうした 何を見たんだ」
ハリーが顔をしかめるたびに、ロンが問いつめた。
「顔だ」
そのたびにハリーはつぶやいた。
「いつも同じ顔だ。グレゴロビッチから何かを盗んだやつの」
するとロンは顔を背そむけ、失望を隠そうともしなかった。ロンが家族や不ふ死し鳥ちょうの騎き士し団だんのメンバーの安否あんぴを知りたがっていることは、ハリーにもわかっていた。しかし、ハリーはテレビのアンテナではない。ある時点でヴォルデモートが考えていることを見ることはできても、好きなものにチャンネルを合わせることはできないのだ。どうやらヴォルデモートは、あのうれしそうな顔の若者のことを、四六時中考えているようだ。ヴォルデモートもハリー同様、あの男が誰なのか、どこにいるのか、知らないらしい。傷痕は焼けるように痛み続け、陽気なブロンドの若者の顔が、焦じらすように脳のう裏りに浮かんだが、その盗ぬすっ人とのことを口に出せば二人をいらだたせるばかりだったので、ハリーは痛みや不快感を抑えて表に出さない術を身につけた。みんなが必死になって、分霊箱の糸口を見つけようとしているのだから、ハリーは、一いち概がいに二人だけを責せめることができなかった。