何日間かが何週間にもなった。ハリーは、ロンとハーマイオニーが、自分のいないところで、自分のことを話しているような気がしはじめた。ハリーがテントに入っていくと、突然二人が黙だまり込む、ということが数回あった。テントの外でも、偶ぐう然ぜんに二度ほど、二人が一いっ緒しょにいるのに出くわしたことがあった。ハリーから少し離はなれたところで、額ひたいをつき合わせて早口で話していたが、ハリーが近づくのに気づいたとたん、話をやめて、水とか薪まきを集めるのに忙しいというふりをした。
ロンとハーマイオニーは、ハリーと一緒に旅に出ると言った。しかし、二人は、ハリーには秘密の計画があって、そのうちきっと二人にも話してくれるだろうと思ったからこそ、従ついてきたのではないだろうか。この旅が、目的もなく漫まん然ぜんと歩き回るだけのものになってしまったように感じられるいま、ハリーはそう考えざるをえなかった。ロンは機嫌きげんの悪さを隠そうともせず、ハーマイオニーも、ハリーのリーダーとしての能力に失望しているのではないかと、ハリーはだんだん心配になってきた。なんとかしなければと、ハリーは分ぶん霊れい箱ばこの在あり処かを考えてみたが、何度考えても、ただ一か所、ホグワーツが頭に浮かぶだけだった。しかしあとの二人がそこはありえないと考えていたので、ハリーには言い出せなかった。
地方を巡るうちに、次第に秋の色が濃くなってきた。テントを張る場所にも、落葉がぎっしり敷しき詰められていた。吸きゅう魂こん鬼きの作り出す霧きりに自然の霧が加わり、風も雨も、三人の苦労を増すばかりだった。ハーマイオニーは食用茸きのこを見分けるのがうまくなっていたが、それだけではあまり慰なぐさめにならないほど三人は孤立こりつし、ほかの人間から切きり離はなされ、ヴォルデモートとの戦いがどうなっているかも、まったくわからないままだった。
「ママは――」
ある晩、ウェールズのとある川岸に野宿のじゅくしているとき、テントの中でロンが言った。
「何にもないところから、おいしいものを作り出せるんだ」
ロンは、皿に載のった黒焦くろこげの灰色っぽい魚を、憂ゆう鬱うつそうに突ついていた。ハリーは反はん射しゃ的てきにロンの首を見たが、思ったとおり、分霊箱の金鎖きんぐさりがそこに光っていた。ロンに向かって悪あく態たいを吐つきたい衝動しょうどうを、ハリーはやっとのことで抑えつけた。ロケットを外はずすときが来ると、ロンの態度が少しよくなるのを知っていたからだ。
「あなたのママでも、何もないところから食べ物を作り出すことはできないのよ」ハーマイオニーが言った。「誰にもできないの。食べ物というのはね、『ガンプの元げん素そ変へん容ようの法ほう則そく』の五つの主たる例外のその第一で――」
「あーあ、普通の言葉でしゃべってくれる」
ロンが、歯の間から魚の骨を引っ張り出しながら言った。
「何もないところからおいしい食べ物を作り出すのは、不可能です 食べ物がどこにあるかを知っていれば『呼よび寄よせ』できるし、少しでも食べ物があれば、変身させることも量を増やすこともできるけど――」
「――ならさ、これなんか増やさなくていいよ。ひどい味だ」ロンが言った。
「ハリーが魚を釣つって、私ができるだけのことをしたのよ 結局いつも私が食べ物をやり繰くりすることになるみたいね。たぶん私が女だからだわ」
「違うさ。君の魔法が、いちばんうまいからだよ」ロンが切り返した。
ハーマイオニーは突然立ち上がり、焼いたカマスの身がブリキの皿から下に滑すべり落ちた。