「ロン、明日はあなたが料理するといいわ あなたが食料を見つけて、呪じゅ文もんで何か食べられるものに変えるといいわ。それで、私はここに座って、顔をしかめて文句を言うのよ。そしたらあなたは、少しは――」
「黙だまって」
ハリーが突然立ち上がって、両手を挙あげながら言った。
「シーッ 黙だまって」
ハーマイオニーが憤ふん慨がいした顔で言った。
「ロンの味方をするなんて。この人、ほとんど一度だって料理なんか――」
「ハーマイオニー、静かにして。声が聞こえるんだ」
両手でしゃべるなと二人を制しながら、ハリーは聞き耳を立てた。すると、傍かたわらの暗い川の流れの音に混じって、また話し声が聞こえてきた。ハリーは「かくれん防ぼう止し器き」を見たが、動いていない。
「『耳みみ塞ふさぎ』の呪じゅ文もんはかけてあるね」
ハリーは小声でハーマイオニーに聞いた。
「全部やったわ」
ハーマイオニーが囁ささやき返した。
「『耳塞ぎ』だけじゃなくて、『マグル避よけ』、『目くらまし術じゅつ』、全部よ。誰が来ても私たちの声は聞こえないし、姿も見えないはずよ」
何か大きなものがガサゴソ動き回る音や、物が擦こすれ合う音に混じって、石や小枝が押し退のけられる音が聞こえ、相手は複数だとわかった。木の生い茂った急な坂を、ハリーたちのテントのある狭せまい川岸へと、這はい下りてくる。三人は杖つえを抜いて待機した。この真まっ暗くら闇やみの中なら、周囲に巡らした呪文だけで、マグルや普通の魔法使いたちに気づかれないようにするには十分だった。もし相手が死し喰くい人びとだったら、保ほ護ご呪じゅ文もんの守りが闇やみの魔術まじゅつに耐たえうるかどうかが、初めて試されることになるだろう。
話し声はだんだん大きくなってきたが、川岸に到着したときも、話の内容は相変わらず聞き取れなかった。ハリーの勘かんでは、相手は五、六メートルも離はなれていないようだった。しかし川の流れの音で、正確なところはわからない。ハーマイオニーはビーズのバッグを素早くつかみ、中をかき回しはじめたが、やがて「伸のび耳みみ」を三個取り出して、ハリーとロンに、それぞれ一個ずつ投げ渡した。二人は急いで薄うす橙だいだい色いろの紐ひもの端はしを耳に差し込み、もう一方の端をテントの入口に這わせた。
数秒後、ハリーは疲れたような男の声をキャッチした。
「ここなら鮭さけの二、三匹もいるはずだ。それとも、まだその季節には早いかな アクシオ 鮭よ、来い」
川の流れとははっきり違う水音が数回して、捕まった魚がじたばたと肌はだを叩たたく音が聞こえた。誰かがうれしそうに何かつぶやいた。ハリーは「伸び耳」をぎゅっと耳に押し込んだ。川の流れに混じってほかの声も聞こえてきたが、英語でもなく、いままで聞いたことのない言葉で、人間のものではない。耳みみ障ざわりなガサガサした言葉で、喉のどに引っかかるような雑音のつながりだ。どうやら二人いる。一人はより低くゆっくりした話し方をする。