聞こえた。やがてテッドの声がした。
「それで、君たち二人はどういう事情かね つまり、えー、小鬼ゴブリンたちはどちらかといえば、『例のあの人』寄りだという印象を持っていたのだがね」
「そういう印象は間違いです」高い声の小鬼こおにが答えた。「我々はどちら寄りでもありません。これは、魔法使いの戦争です」
「それじゃ、君たちはなぜ隠れているのかね」
「慎重しんちょうを期するためです」低い声の小鬼が答えた。「私にしてみれば無礼極きわまりないと思われる要求を拒きょ絶ぜつしましたので、身の危険を察知さっちしました」
「連中は何を要求したのかね」テッドが聞いた。
「わが種族の尊そん厳げんを傷つける任務にんむです」
小鬼の答える声は、より荒くなり、人間味が薄うすれていた。
「私は、『屋敷やしきしもべ妖よう精せい』ではない」
「グリップフック、君は」
「同じような理由です」声の高い小鬼が答えた。「グリンゴッツは、もはや我々の種族だけの支配ではなくなりました。私は、魔法使いの主人など認知にんちいたしません」
グリップフックは小声で何かつけ加えたが、ゴブリン語だった。ゴルヌックが笑った。
「何がおかしいの」ディーンが聞いた。
「グリップフックが言うには」ダークが答えた。「魔法使いが認知していないこともいろいろある」
少し間があいた。
「よくわからないなぁ」ディーンが言った。
「逃げる前に、ちょっとした仕返しをしました」グリップフックが英語で言った。
「それでこそ男だ――あ、いや、それでこそ小鬼ゴブリンだ」テッドは急いで訂てい正せいした。「死し喰くい人びとを一人、特別に機き密みつ性せいの高い古い金庫に閉じ込めたりしたんじゃなかろうね」
「そうだとしても、あの剣つるぎでは金庫を破やぶる役には立ちません」グリップフックが答えた。
ゴルヌックがまた笑い、ダークまでがクスクス笑った。
「ディーンも私も、何か聞き逃していることがありそうだね」テッドが言った。
「セブルス・スネイプにも逃したものがあります。もっとも、スネイプはそれさえも知らないのですが」グリップフックが言った。
そして二人の小鬼こおには、大声で意地悪く笑った。
テントの中で、ハリーは興こう奮ふんに息を弾はずませていた。ハリーとハーマイオニーは、顔を見合わせ、これ以上は無理だというほど聞き耳を立てた。
「テッド、あのことを聞いていないのか」ダークが問いかけた。「ホグワーツのスネイプの部屋から、グリフィンドールの剣つるぎを盗み出そうとした子どもたちのことだが」
ハリーの体を電流が走り、神経の一本一本を掻かき鳴らした。ハリーはその場に根が生えたように立ちすくんだ。