それからは、ナイフとフォークの音だけで、長い沈ちん黙もくが続いた。次に話し出したときは、川岸でこのまま寝るか、それとも木の茂った斜面に戻るかの話し合いだった。木があるほうが身を隠しやすいと決めた一いっ行こうは、焚たき火びを消し、再び斜面を登っていった。話し声は次第に消えていった。
ハリー、ロン、ハーマイオニーは、「伸のび耳みみ」を巻き取った。盗み聞きを続ければ続けるほど、黙だまっているのが難しくなってきていたハリーだったが、いま口を突いて出てくる言葉は、「ジニー――剣つるぎ――」だけだった。
「わかってるわ」ハーマイオニーが言った。
ハーマイオニーは、またしてもビーズバッグをまさぐったが、今回は片腕をまるまる奥まで突っ込んでいた。
「さあ……ここに……あるわ……」
ハーマイオニーは歯を食いしばって、バッグの奥にあるらしい何かを引っ張り出しながら言った。ゆっくりと、装そう飾しょく的てきな額がく縁ぶちの端はしが現れた。ハリーは急いで手を貸した。ハーマイオニーのバッグから、二人がかりで、額縁だけのフィニアス・ナイジェラスの肖しょう像ぞう画がを取り出すと、ハーマイオニーは杖つえを向けて、いつでも呪じゅ文もんをかけられる態たい勢せいを取った。
「もしも、剣がまだダンブルドアの校長室にあったときに、誰かが贋にせ物ものとすり替かえていたのなら――」
ハーマイオニーは、額縁をテントの脇わきに立て掛かけながら、息を弾はずませた。
「その現場を、フィニアス・ナイジェラスが見ていたはずよ。彼の肖像画はガラスケースのすぐ脇わきに掛かっているもの」
「眠っていなけりゃね」
そうは言ったものの、ハリーは、ハーマイオニーが空からの肖像画の前にひざまずいて杖を絵の中心に向けるのを、息を殺して見守った。ハーマイオニーは、咳せき払ばらいをしてから呼びかけた。
「えー――フィニアス フィニアス・ナイジェラス」
何事も起こらない。
「フィニアス・ナイジェラス」
ハーマイオニーが、再び呼びかけた。
「ブラック教授きょうじゅ お願いですから、お話できませんか どうぞお願いします」
「『どうぞ』は常に役に立つ」
皮肉ひにくな冷たい声がして、フィニアス・ナイジェラスがするりと額がくの中に現れた。すかさずハーマイオニーが叫さけんだ。
「オブスクーロ 目隠めかくし」
フィニアス・ナイジェラスの賢さかしい黒い目を、黒の目隠しが覆おおい、フィニアスは額縁がくぶちにぶつかって、ギャッと痛そうな悲鳴ひめいを上げた。
「なんだ――よくも――いったいどういう――」
「ブラック教授、すみません」ハーマイオニーが言った。「でも、用心する必要があるんです」
「この汚きたならしい描かき足たしを、すぐに取り去りたまえ 取れといったら取れ 偉大いだいなる芸術を損傷そんしょうしているぞ ここはどこだ 何が起こっているのだ」
「ここがどこかは、気にしなくていい」ハリーが言った。
フィニアス・ナイジェラスは、描き足された目隠しを剥はがそうとあがくのをやめて、その場に凍こおりついた。