「マグル生まれめが――小鬼ゴブリン製せいの刀とう剣けん・甲冑かっちゅうは、磨く必要などない。単たん細さい胞ぼうめ。ゴブリンの銀は世俗せぞくの汚れを寄せつけず、自らを強化するもののみを吸収するのだ」
「ハーマイオニーを単細胞なんて呼ぶな」ハリーが言った。
「反はん駁ばくされるのは、もううんざりですな」フィニアス・ナイジェラスが言った。「そろそろホグワーツの校長室に戻る潮しお時どきですかな」
目隠しされたまま、フィニアスは絵の縁ふちを探りはじめ、手探りで絵から抜け出し、ホグワーツの肖しょう像ぞう画がに戻ろうとした。ハリーは突然、ある考えが閃ひらめいた。
「ダンブルドアだ ダンブルドアを連れてこられる」
「何だって」フィニアス・ナイジェラスが聞き返した。
「ダンブルドア先生の肖像画です――ダンブルドア先生をここに、あなたの肖像画の中に連れてこられませんか」
フィニアス・ナイジェラスは、ハリーの声のほうに顔を向けた。
「どうやら無知なのは、マグル生まれだけではなさそうだな、ポッター。ホグワーツの肖像画は、お互いに往いき来きできるが、城の外に移動することはできない。どこかほかに掛かかっている自分自身の肖しょう像ぞう画がだけは別だ。ダンブルドアは、私と一いっ緒しょにここに来ることはできない。それに、君たちの手でこのような待たい遇ぐうを受けたからには、私がここを訪問することも二度とないと思うがよい」
ハリーは少しがっかりして、絵から出ようとますます躍起やっきになっているフィニアスを見つめた。
「ブラック教授きょうじゅ」
ハーマイオニーが呼びかけた。
「お願いですから、どうぞ教えていただけませんか。剣つるぎが最後にケースから取り出されたのは、いつでしょう つまり、ジニーが取り出す前ですけど」
フィニアスはいらいらした様子で、鼻息も荒く言った。
「グリフィンドールの剣が最後にケースから出るのを見たのは、たしか、ダンブルドア校長が指輪ゆびわを開くために使用したときだ」
ハーマイオニーが、くるりとハリーを振ふり向いた。フィニアス・ナイジェラスの前で、二人ともそれ以上、何も言えはしなかった。フィニアスは、ようやく出口を見つけた。
「では、さらばだ」
フィニアスはやや皮肉ひにくな捨すて科白ぜりふを残して、まさに姿を消そうとした。まだ見えている帽子ぼうしのつばの端はしに向かって、ハリーが突然叫さけんだ。
「待って スネイプにそのことを話したんですか」
フィニアス・ナイジェラスは、目隠しされたままの顔を絵の中に突き出した。
「スネイプ校長は、アルバス・ダンブルドアの数々の奇行きこうなんぞより、もっと大切な仕事で頭が一杯だ。ではさらば、ポッター」
それを最後に、フィニアスの姿は完全に消え、あとにはくすんだ背景だけが残された。