「ハリー」ハーマイオニーが叫んだ。
「わかってる」ハリーも叫んだ。
興こう奮ふんを抑えきれず、ハリーは拳こぶしで天を突いた。これほどの収穫しゅうかくがあるとは思わなかった。テントの中を歩き回りながら、ハリーはいまならどこまででも走れるような気がした。空腹さえ感じていなかった。ハーマイオニーは、フィニアス・ナイジェラスの肖像画をビーズバッグの中に再び押し込み、留め金をとめてバッグを脇わきに投げ出し、顔を輝かがやかせてハリーを見上げた。
「剣が、分ぶん霊れい箱ばこを破壊はかいできるんだわ 小鬼ゴブリン製せいの刃やいばは、自らを強化するものだけを吸収する――ハリー、あの剣は、バジリスクの毒を含んでいるわ」
「そして、ダンブルドアが僕に剣を渡してくれなかったのは、まだ必要だったからだ。ロケットに使うつもりで――」
「――そして、もし遺ゆい言ごんに書いたら、連中があなたに剣を引き渡さないだろうって、ダンブルドアは知っていたに違いないわ――」
「――だから贋にせ物ものを作った――」
「――そして、ガラスケースに贋がん作さくを入れたのね――」
「――それから本物を――どこだろう」
二人はじっと見つめ合った。ハリーは、見えない答えがそのへんにぶら下がっているような気がした。身近に、焦じらすように。ダンブルドアはどうして教えてくれなかったのだろう それとも、実は、ハリーが気がつかなかっただけで、すでに話してくれていたのだろうか
「考えて」ハーマイオニーが囁ささやいた。「考えるのよ ダンブルドアが剣つるぎをどこに置いたのか」
「ホグワーツじゃない」ハリーは、また歩きはじめた。
「ホグズミードのどこかは」ハーマイオニーがヒントを出した。
「『叫さけびの屋敷やしき』は」ハリーが言った。「あそこには誰も行かないし」
「でも、スネイプが入り方を知っているわ。ちょっと危ないんじゃないかしら」
「ダンブルドアは、スネイプを信用していた」ハリーが、ハーマイオニーに思い出させた。
「でも、剣のすり替かえを教えるほどには、信用してはいなかった」ハーマイオニーが言った。
「うん、それはそうだ」
そう言いながら、ハリーは、どんなに微かすかな疑いであれ、ダンブルドアにはスネイプを信用しきっていないところがあったのだと思うと、ますます元気が出てきた。
「じゃあ、ダンブルドアは、ホグズミードから遠く離はなれた所に剣を隠したんだろうか ロン、どう思う ロン」
ハリーはあたりを見回した。一瞬いっしゅん、ロンがテントから出ていってしまったのではないかと思い、ハリーは戸惑とまどった。しかしロンは、二段ベッドの下段の薄うす暗くらがりに、石のように硬かたい表情で横たわっていた。
「おや、僕のことを思い出したってわけか」ロンが言った。
「え」
ロンは上段のベッドの底を見つめながら、フンと鼻を鳴らした。
「お二人さんでよろしくやってくれ。せっかくのお楽しみを、邪魔じゃましたくないんでね」
呆気あっけに取られて、ハリーはハーマイオニーに目で助けを求めたが、ハーマイオニーもハリーと同じぐらい途方とほうに暮れているらしく、首を振ふった。