「何が気に入らないんだ」ハリーが聞いた。
「何が気に入らないって べつになんにも」
ロンはまだ、ハリーから顔を背そむけたままだった。
「もっとも、君に言わせれば、の話だけどね」
テントの天井にパラパラと水音がした。雨が降ふり出していた。
「いや、君は間違いなく何かが気に入らない」ハリーが言った。「はっきり言えよ」
ロンは長い足をベッドから投げ出して、上体を起こした。ロンらしくない、ひねくれた顔だ。
「ああ、言ってやる。僕が小躍こおどりしてテントの中を歩き回るなんて、期待しないでくれ。なんだい、ろくでもない探し物が、また一つ増えただけじゃないか。君の知らないもののリストに加えときゃいいんだ」
「僕が知らない」ハリーが繰くり返した。「僕が知らないって」
バラ、バラ、バラ。雨足が強くなった。テントの周りでは、川岸に敷しき詰められた落ち葉を雨が打つ音や、闇やみを流れる川の瀬音せおとがしていた。昂たかぶっていたハリーの心に冷水を浴あびせるように、恐怖が広がった。ロンは、ハリーの想像していたとおりのことを、そして恐れていたとおりのことを考えていたのだ。
「ここでの生活は最高に楽しいものじゃない、なんて言ってないぜ」ロンが言った。「腕はめちゃめちゃ、食い物はなし、毎晩尻しりを冷やして見張り、てな具合のお楽しみだしな。ただ僕は、数週間駆かけずり回った末には、まあ、少しは何か達たっ成せいできてるんじゃないかって、そう思ってたんだ」
「ロン」
ハーマイオニーが蚊かの鳴くような声で言ったが、ロンは、いまやテントに叩たたきつけるような大きな雨の音にかこつけて、聞こえないふりをした。
「僕は、君が何に志願しがんしたのかわかっている、と思っていた」ハリーが言った。
「ああ、僕もそう思ってた」
「それじゃ、どこが君の期待どおりじゃないって言うんだ」
怒りのせいで、ハリーは反はん撃げきに出た。
「五つ星の高級ホテルに泊とまれるとでも思ったのか 一日おきに分ぶん霊れい箱ばこが見つかるとでも クリスマスまでにはママのところに戻れると思っていたのか」
「僕たちは、君が何もかも納得なっとくずくで事ことに当たっていると思ってた」
ロンは立ち上がって怒ど鳴なった。その言葉は焼けたナイフのようにハリーを貫いた。
「僕たちは、ダンブルドアが君のやるべきことを教えてると思っていた 君には、ちゃんとした計画があると思ったよ」
「ロン」
こんどのハーマイオニーの声は、テントの天井に激はげしく打ちつける雨の音よりもはっきりと聞こえたが、ロンはそれも無視した。
「そうか。失望させてすまなかったな」
心は虚うつろで自信もなかったが、ハリーは落ち着いた声で言った。
「僕は、はじめからはっきり言ったはずだ。ダンブルドアが話してくれたことは、全部君たちに話したし、忘れてるなら言うけど、分ぶん霊れい箱ばこを一つ探し出した――」
「ああ、しかも、それを破壊はかいする可能性は、ほかの分霊箱を見つける可能性と同じぐらいさ――つまり、まーったくなし」