「僕の両親は、死んでるんだ」ハリーは大声を出した。
「僕の両親も、同じ道をたどっているかもしれないんだ」ロンも叫さけんだ。
「なら、行けよ」
ハリーが怒ど鳴なった。
「みんなのところに帰れ。黒斑病が治ったふりをしろよ。そしたらママがお腹一杯食べさせてくれて、そして――」
ロンが突然動いた。ハリーも反応した。しかし二人の杖つえがポケットから出る前に、ハーマイオニーが杖を上げていた。
「プロテゴ 護まもれ」
見えない盾たてが広がり、片側にハリーとハーマイオニー、反対側にロン、と二分した。呪じゅ文もんの力で、双そう方ほうが数歩ずつ後あと退ずさりした。ハリーとロンは、透とう明めいな障壁しょうへきの両側で、初めて互いをはっきり見るかのようににらみ合った。ロンに対する憎しみが、ハリーの心をじわじわと蝕むしばんだ。二人の間で何かが切れた。
「分ぶん霊れい箱ばこを、置いていけよ」ハリーが言った。
ロンは鎖くさりを首からぐいと外はずし、そばにあった椅い子すにロケットを投げ捨てた。
「君はどうする」ロンがハーマイオニーに向かって言った。
「どうするって」
「残るのか、どうなんだ」
「私……」
ハーマイオニーは苦しんでいた。
「ええ――私、ええ、残るわ。ロン、私たち、ハリーと一いっ緒しょに行くと言ったわ。助けるんだって、そう言ったわ――」
「そうか。君はハリーを選んだんだ」
「ロン、違うわ――お願い――戻ってちょうだい。戻って」
ハーマイオニーは、自分の「盾たての呪じゅ文もん」に阻はばまれた。障壁を取り外したときには、ロンはもう、夜の闇やみに荒々しく飛び出していったあとだった。ハリーは黙だまったまま、身動きもせず立ち尽つくし、ハーマイオニーが泣きじゃくりながら木立の中からロンの名前を呼び続ける声を聞いていた。
しばらくして、ハーマイオニーが戻ってきた。ぐっしょり濡ぬれた髪かみが、顔に張りついている。
「い――行って――行ってしまったわ 『姿すがたくらまし』して」
ハーマイオニーは椅い子すに身を投げ出し、身を縮めて泣き出した。
ハリーは何も考えられなかった。屈かがんで分ぶん霊れい箱ばこを拾い上げ、首に掛かけると、ロンのベッドから毛布を引っ張り出して、ハーマイオニーに着せかけた。それから自分のベッドに登り、テントの暗い天井を見つめながら、激はげしく打ちつける雨の音を聞いた。