それから数日の間、二人はロンのことをまったく話題にしなかった。ハリーは、ロンの名前を二度と口にすまいと心に誓ちかっていたし、ハーマイオニーは、この問題を追及してもむだだとわかっているようだった。しかし、夜になると、ときどきハリーの寝ている時間を見計みはからったように、ハーマイオニーのすすり泣く声が聞こえた。一方ハリーは、「忍しのびの地ち図ず」を取り出して杖灯つえあかりで調べるようになった。ロンの名前が記しるされた点が、ホグワーツの廊下ろうかに戻る瞬間しゅんかんを待っていたのだ。現れれば、純血じゅんけつという身分に守られて、ぬくぬくとした城に戻った証拠しょうことなる。しかし、ロンは地図に現れなかった。しばらくするとハリーは、女じょ子し寮りょうのジニーの名前を見つめるためだけに、地図を取り出している自分に気がついた。これだけ強烈きょうれつに見つめれば、もしかしたらジニーの夢に入り込むことができるのではないか、自分がジニーのことを想おもい無事を祈いのっていることがなんとかジニーに通じるのではないだろうか、と思った。
昼の間は、グリフィンドールの剣つるぎのありそうな場所はどこかと、二人で必死に考えた。しかし、ダンブルドアが隠しそうな場所を話し合えば話し合うほど、二人の推理すいりはますます絶ぜつ望ぼう的てきになり、ありそうもない方向に流れた。ハリーがどんなに脳のうみそをしぼっても、ダンブルドアが何か隠す場所を口にしたという記憶きおくはなかった。ときどきハリーは、ダンブルドアとロンのどちらに、より腹を立てているのかわからなくなるときがあった。「僕たちは、君が何もかも納なっ得とくずくで事ことに当たっていると思ってた……僕たちは、ダンブルドアが君のやるべきことを教えてると思っていた……君には、ちゃんとした計画があると思ったよ」
ロンの言ったことは正しい。ハリーは、その事実から目を背そむけることができなかった。ダンブルドアは事実上、ハリーに何も遺のこしていかなかった。分ぶん霊れい箱ばこの一つは探し出したが、破壊はかいする方法はなかった。他の分霊箱が手に入らないという状況は、はじめからまったく変わっていない。ハリーは絶望に飲み込まれてしまいそうだった。こんな当てどない無意味な旅に同行するという友人の申し出を受け入れた自分は、身のほど知らずだった。ハリーは、いまさらながらに動揺どうようした。自分は何も知らない。何の考えも持っていないのだ。ハーマイオニーもまた、嫌気がさしてハリーから離はなれると言い出すのではないかと、ハリーはそんな気配を見落とさないよう、いつも痛いほど張りつめていた。
幾晩いくばんも、二人はほとんど無言で過ごした。ハーマイオニーは、ロンが去ったあとの大きな穴を埋めようとするかのように、フィニアス・ナイジェラスの肖しょう像ぞう画がを取り出して椅い子すに立て掛かけた。二度と来ないとの宣言せんげんにもかかわらず、フィニアスはハリーの目的を窺うかがい知る機会の誘惑ゆうわくに負けたようで、数日おきに目隠しつきで現れることに同意した。ハリーは、フィニアスでさえ会えてうれしかった。傲慢ごうまんで人を嘲あざけるタイプではあっても、話し相手には違いない。ホグワーツで起こっていることなら、どんなニュースでも二人にとっては歓迎かんげいだった。もっともフィニアス・ナイジェラスは、理想的な情じょう報ほう屋やとは言えなかった。フィニアスは、自分が学校を牛耳ぎゅうじって以来のスリザリン出身である校長を崇あがめていたので、スネイプを批判ひはんしたり、校長に関する生意気な質問をしたりしないように気をつけないと、たちまち肖像画から姿を消してしまうのだった。