とはいえ、ある程度の断片的なニュースは漏もらしてくれた。スネイプは、強きょう硬こう派はの学生による小しょう規き模ぼの反乱に、絶えず悩なやまされているようだった。ジニーはホグズミード行きを禁じられていた。また、スネイプは、アンブリッジ時代の古い教育令である学生がくせい集会しゅうかい禁止きんし令れいを復活ふっかつさせ、三人以上の集会や非公式の生徒の組織を禁じていた。
こうしたことから、ハリーは、ジニーがたぶんネビルとルーナと一緒いっしょになって、ダンブルドア軍団ぐんだんを継続する努力をしているのだろうと推すい測そくした。こんなわずかなニュースでも、ハリーは、胃が痛くなるほどジニーに会いたくてたまらなくなった。しかし同時に、ロンやダンブルドアのことも考えてしまったし、ホグワーツそのものを、ガールフレンドだったジニーと同じぐらい恋しく思った。フィニアス・ナイジェラスがスネイプによる弾圧だんあつの話をしたときなど、一瞬いっしゅん我を忘れ、学校に戻ってスネイプ体たい制せい揺ゆさぶりの運動に加わろうと、本気でそう思ったほどだった。食べ物や柔やわらかなベッドがあり、自分以外の誰かが指し揮きを執とっている状況は、このときのハリーにとって、この上なくすばらしいものに思われた。しかし、自分が「問もん題だい分ぶん子しナンバーワン」であることや、首に一万ガリオンの懸けん賞しょう金きんが懸かかっていることを思い出し、ホグワーツにいまのこのこ戻るのは、魔ま法ほう省しょうに乗り込むのと同じぐらい危険だと思い直した。実際にフィニアス・ナイジェラスが、何気なくハリーとハーマイオニーの居い場ば所しょに関する誘ゆう導どう尋じん問もんを会話に挟はさむことで、計はからずもその危険性を浮き彫りにしてくれた。そのたびに、ハーマイオニーは肖しょう像ぞう画がを乱暴にビーズバッグに押し込んだし、フィニアスはと言えば、無礼な別れの挨拶あいさつへの応酬おうしゅうにその後数日は現れないのが常だった。
季節はだんだん寒さを増してきた。イギリスの南部地方だけに留まれるなら、せいぜい霜が立つことくらいが悩みの種だったが、一か所に長く滞在たいざいすることは危険だということであちらこちらをジグザグに渡り歩いたため、二人は大変な目に遭あうことになった。あるときは霙みぞれが山腹に張ったテントを打ち、あるときは広大な湿原しつげんで冷たい水がテントを水浸みずびたしにした。また、スコットランドの湖の真ん中にある小島では、一夜にしてテントの半分が雪に埋もれた。
居間の窓にきらめくクリスマスツリーをちらほら見かけるようになったある晩、ハリーは、まだ探っていない唯一ゆいいつの残された途みちだと思われる場所を、もう一度提案しようと決心した。「透明とうめいマント」に隠れてスーパーに行ったハーマイオニーのおかげで――出るときに、開いていたレジの現金入れに几き帳ちょう面めんにお金を置いてきたのだが――いつになく豊かな食事をしたあとのことだった。スパゲッティミートソースと缶詰かんづめの梨なしで満腹のハーマイオニーは、いつもより説せっ得とくしやすそうに思われた。その上、用意周到しゅうとうにも、分ぶん霊れい箱ばこを身につけるのを数時間休もうと提案しておいたので、分霊箱はハリーの脇わきの二段ベッドの端はしにぶら下がっていた。
「ハーマイオニー」
「ん」
ハーマイオニーは、「吟ぎん遊ゆう詩し人じんビードルの物語ものがたり」を手に、クッションの凹へこんだ肘ひじ掛かけ椅い子すの一つに丸くなって座っていた。ハリーは、この本からこれ以上得るものがあるのかどうかすら疑問ぎもんだった。もともとがたいして厚い本ではない。しかしハーマイオニーは間違いなく、まだ何かの謎解なぞときをしていた。椅い子すの肘ひじに、「スペルマンのすっきり音節おんせつ」が開いて置いてある。
ハリーは咳払せきばらいした。数年前に、まったく同じ気持になったことを思い出した。ダーズリー夫婦を説得せっとくできずに、ホグズミード行きの許きょ可か証しょうにサインしてもらえなかったにもかかわらず、マクゴナガル先生に許可を求めたときのことだ。