「ハーマイオニー、僕、ずっと考えていたんだけど――」
「ハリー、ちょっと手伝ってもらえる」
どうやらハリーの言ったことを聞いていなかったらしいハーマイオニーが、身を乗り出して、「吟ぎん遊ゆう詩し人じんビードルの物語ものがたり」をハリーに差し出した。
「この印を見て」
ハーマイオニーは、開いたページのいちばん上を指差して言った。物語の題だと思われる文字の上にハリーはルーン文字が読めなかったので、題かどうか自信がなかったが、三角の目のような絵があった。瞳ひとみの真ん中に縦線たてせんが入っている。
「ハーマイオニー、僕、古代ルーン文字の授業じゅぎょうを取ってないよ」
「それはわかってるわ。でも、これ、ルーン文字じゃないし、スペルマンの音おん節せつ表ひょうにも載のっていないの。私はずっと、目だと思っていたんだけど、違うみたい これ、書き加えられているわ。ほら、誰かがそこに描いたのよ。元々の本にはなかったの。よく考えてね。どこかで見たことがない」
「ううん……ない。あっ、待って」ハリーは目を近づけた。「ルーナのパパが、首から下げていたのと同じ印じゃないかな」
「ええ、私もそう思ったの」
「それじゃ、グリンデルバルドの印だ」
ハーマイオニーは、口をあんぐり開けてハリーを見つめた。
「何ですって」
「クラムが教えてくれたんだけど……」
ハリーは、結婚式でビクトール・クラムが物語ったことを話して聞かせた。ハーマイオニーは目を丸くした。
「グリンデルバルドの印ですって」
ハーマイオニーはハリーから奇妙きみょうな印へと目を移し、再びハリーを見た。
「グリンデルバルドが印を持っていたなんて、私、初耳だわ。彼に関するものはいろいろ読んだけど、どこにもそんなことは書いてなかった」
「でも、いまも言ったけど、あの印はダームストラングの壁かべに刻きざまれているもので、グリンデルバルドが刻んだって、クラムが言ったんだ」
ハーマイオニーは眉根まゆねにしわを寄せて、また古い肘ひじ掛かけ椅い子すに身を沈めた。
「変だわ。この印が闇やみの魔術まじゅつのものなら、子どもの本と、どういう関係があるの」
「うん、変だな」ハリーが言った。「それに、闇の印なら、スクリムジョールがそうと気づいたはずだ。大臣だったんだから、闇のことなんかに詳くわしいはずだもの」
「そうね……私とおんなじに、これが目だと思ったのかもしれないわ。ほかの物語にも全部、題の上に小さな絵が描いてあるの」