ハリーは翌日にもゴドリックの谷に出発したいくらいだったが、ハーマイオニーの考えは違っていた。両親の死んだ場所にハリーが戻ることを、ヴォルデモートは予想しているに違いないと確信していたハーマイオニーは、二人とも最高の変へん装そうができたという自信が持てるまでは出発はしないと、固く心に決めていた。そんなわけで、まる一週間経たってから――クリスマスの買い物をしていた何も知らないマグルの髪かみの毛をこっそりいただき、「透とう明めいマント」を被かぶったままで一いっ緒しょに「姿すがた現わし」と「姿くらまし」が完璧かんぺきにできるように練習してから――ハーマイオニーはやっと旅に出ることを承知しょうちした。
夜の闇やみにまぎれて村に「姿現わし」する計画だったので、二人は午後も遅い時間になってから、やっとポリジュース薬を飲んだ。ハリーは禿はげかかった中年男のマグルに、そしてハーマイオニーは小柄こがらで目立たないその妻に変身した。所しょ持じ品ひんのすべてが入ったビーズバッグは分ぶん霊れい箱ばこだけはハリーが首から掛かけたが、ハーマイオニーが内ポケットにしまい込んでからきっちりコートのボタンをかけた。ハリーが「透明マント」を二人に被せ、それから一緒に回転して、またもや息が詰まるような暗くら闇やみに入り込んだ。
心臓が喉のど元もとで激はげしく打つのを感じながら、ハリーは目を開けた。二人は、雪深い小道に手をつないで立っていた。夕暮れのダークブルーの空には、宵よいの星がちらほらと弱い光を放はなちはじめていた。狭せまい小道の両側に、クリスマス飾かざりを窓辺まどべにキラキラさせた小さな家が立ち並んでいる。少し先に金色に輝かがやく街がい灯とうが並び、そこが村の中心であることを示していた。
「こんなに雪が」
透明マントの下で、ハーマイオニーが小声で言った。
「どうして雪のことを考えなかったのかしら あれだけ念入りに準備じゅんびしたのに、雪に足あし跡あとが残るわ 消すしかないわね――前を歩いてちょうだい。私が消すわ――」
姿を隠したまま足跡を魔法で消して歩くなど、ハリーはそんなパントマイムの馬のような格かっ好こうで村に入りたくなかった。
「マントを脱ぬごうよ」
ハリーがそう言うと、ハーマイオニーは怯おびえた顔をした。
「大丈夫だから。僕たちだとはわからない姿をしているし、それに周りに誰もいないよ」
ハリーが「マント」を上着の下にしまい、二人は「マント」に煩わずらわされずに歩いた。何軒もの小さな家の前を通り過ぎる二人の顔を、氷のように冷たい空気が刺さした。ジェームズとリリーがかつて暮らした家や、バチルダがいまも住む家は、こうした家の中のどれかかもしれない。ハリーは一軒一軒の入口の扉とびらや、雪の積もった屋根、庇ひさしつきの玄げん関かん先さきをじっと眺ながめ、見覚えのある家はないかと探した。しかし心の奥では、思い出すことなどありえないとわかっていた。この村を永久に離はなれたとき、ハリーはまだ一歳になったばかりだった。その上、その家が見えるかどうかも定さだかではなかった。「忠誠ちゅうせいの術じゅつ」をかけた者が死んだ場合はどうなるのか、ハリーは知らなかった。二人の歩いている小道が左に曲がり、村の中心の小さな広場が目の前に現れた。