豆電球の灯あかりでぐるりと囲まれた広場の真ん中に、戦争せんそう記念きねん碑ひのようなものが見えた。くたびれた感じのクリスマスツリーが、その一部を覆おおっている。店が数軒、郵便局、パブが一軒、それに小さな教会がある。教会のステンドグラスが、広場の向こう側で宝石のように眩まばゆく光っていた。
広場の雪は踏ふみ固められ、人々が一日中歩いたところは固くつるつるしていた。目の前を行き交う村人の姿が、街がい灯とうの明かりでときどき照らし出された。パブの扉とびらが一度開いて、また閉まり、笑い声やポップスが一瞬いっしゅんだけ流れ出した。やがて小さな教会からクリスマス・キャロルが聞こえてきた。
「ハリー、今日はクリスマス・イブだわ」ハーマイオニーが言った。
「そうだっけ」
ハリーは日にちの感覚を失っていた。二人とも、何週間も新聞を読んでいなかった。
「間違いないわ」
ハーマイオニーが教会を見つめながら言った。
「お二人は……お二人ともあそこにいらっしゃるんでしょう あなたのお父様とお母様。あの後ろに、墓地が見えるわ」
ハリーはぞくりとした。興こう奮ふんを通り越して、恐怖に近かった。これほど近づいたいま、本当に見たいのかどうか、ハリーにはわからなくなっていた。ハーマイオニーはおそらく、そんなハリーの気持を察したのだろう。ハリーの手を取って初めて先に立ち、ハリーを引っ張った。しかし、ハーマイオニーは、広場の中ほどで突然立ち止まった。
「ハリー、見て」
ハーマイオニーの指先に、戦争記念碑があった。二人がそばを通り過ぎると同時に、記念碑が様変わりしていた。数多くの名前が刻きざまれたオベリスクではなく、三人の像が建っている。メガネを掛かけたくしゃくしゃな髪かみの男性、髪の長い優しく美しい顔の女性、母親の両腕に抱かれた男の子。それぞれの頭に、柔やわらかな白い帽子ぼうしのように雪が積もっている。
ハリーは近寄って、両親の顔をじっと見た。像があるとは思ってもみなかった……石に刻きざまれた自分の姿を見るのは、不思議な気持だった。額ひたいに傷きず痕あとのない、幸福な赤ん坊……。
「さあ」
思う存分眺ながめた後、ハリーが促うながした。二人は再び教会に向かった。道を渡ってから、ハリーは振ふり返った。像は再び戦争記念碑に戻っていた。