ハーマイオニーは、ハリーを見つめていた。顔が暗がりに隠れていてよかったと、ハリーは思った。ハリーは、墓石に刻きざまれた言葉をもう一度読んだ。
なんじの財宝たからのある所には、なんじの心もあるべし
ハリーには何のことか、理解できなかった。母親亡きあとは家長となった、ダンブルドアの選んだ言葉に違いない。
「先生は本当に一度もこのことを――」ハーマイオニーが口を開いた。
「話してない」ハリーはぶっきらぼうに答えた。「もっと探そう」
そしてハリーは、見なければよかったと思いながらその場を離はなれた。興こう奮ふんと戦せん慄りつが入いり交まじった気持に、恨うらみを交まじえたくなかった。
「ここ」
しばらくして、ハーマイオニーが再び暗がりの中で叫さけんだ。
「あ、ごめんなさい ポッターと書いてあると思ったの」
ハーマイオニーは、苔こけむして崩くずれかけた墓石を擦こすっていたが、覗のぞき込んで少し眉根まゆねを寄せた。
「ハリー、ちょっと戻ってきて」
ハリーはもう寄り道したくはなかったが、しぶしぶ雪の中を引き返した。
「なに」
「これを見て」
非常に古い墓だ。風雨にさらされて、ハリーには名前もはっきり読み取れない。ハーマイオニーは名前の下の印を指差した。
「ハリー、あの本の印よ」
ハーマイオニーの示す先を、ハリーはよくよく見た。石がすり減っていて、何が刻まれているのかよくわからない。しかし、ほとんど判はん読どくできない名前の下に、三角の印らしいものがあった。
「うん……そうかもしれない……」
ハーマイオニーは、杖つえ灯あかりを点つけて、墓石の名前のところに向けた。
「イグ――イグノタス、だと思うけど……」
「僕は両親の墓を探し続ける。いいね」
ハリーは少しとげとげしくそう言うと、古い墓の前に屈かがみ込んでいるハーマイオニーを置いて、歩きはじめた。
さっき見たアボットのように、ハリーはときどき、ホグワーツで出会った名前を見つけた。数世代にわたる同じ家系かけいの墓もいくつか見つけた。年号から考えて、もうその家系は死に絶えたか、または現在の世代がゴドリックの谷から引っ越してしまったと思われる。どんどん奥に入り込み、まだ新しい墓石を見つけるたびに、不安と期待でハリーはどきっとした。
突然、暗くら闇やみと静寂せいじゃくが一段と深くなったような気がした。ハリーは、吸きゅう魂こん鬼きではないかと不安に駆かられてあたりを見回したが、そうではなかった。クリスマス・キャロルを歌い終わった参さん列れつ者しゃが、次々と街まちの広場に出ていき、話し声や騒音が徐じょ々じょに消えていったからだった。教会の中の誰かが、明かりを消したところだった。