そのとき、ハーマイオニーの三度目の声が、二、三メートル離はなれた暗闇の中から、鋭するどく、はっきりと聞こえた。
「ハリー、ここだわ……ここよ」
声の調子から、ハリーは、こんどこそ父親と母親だとわかった。重苦しいもので胸を塞ふさがれるように感じながら、ハリーはハーマイオニーのほうへと歩いた。ダンブルドアが死んだ直後と同じ気持だった。本当に心臓と肺を押しつぶすような、重い悲しみだ。
墓石は、ケンドラとアリアナの墓からほんの二列後ろにあった。ダンブルドアの墓と同じく白い大だい理り石せきだ。暗闇に輝かがやくような白さのおかげで、刻きざまれた文字が読みやすかった。文字を読み取るのに、ひざまずく必要も間近まで行く必要もなかった。
ハリーは、たった一度しかその意味を理解するチャンスがないかのように、ゆっくりと墓ぼ碑ひ銘めいを読み、最後の言葉は声に出して読んだ。
「『最後いやはての敵てきなる死もまた亡ほろぼされん』……」
ハリーは恐ろしい考えが浮かび、恐怖に駆かられた。
「これ、死し喰くい人びとの考えじゃないのか それがどうしてここに」
「ハリー、死喰い人が死を打ち負かすというときの意味と、これとは違うわ」
ハーマイオニーの声は優しかった。
「この意味は……そうね……死を超こえて生きる。死後に生きること」
しかし、両親は生きていない、とハリーは思った。死んでしまった。空くう虚きょな言葉で事実をごまかすことはできない。両親の遺体いたいは、何も感じず、何も知らずに、雪と石の下に横たわって朽くち果はてている。知らず知らずに涙が流れ、熱い涙は頬ほおを伝ってたちまち凍こおった。涙を拭ぬぐってどうなろう 隠してどうなろう ハリーは涙の流れるにまかせ、唇くちびるを固く結んで、足下の深い雪を見つめた。この下に、ハリーの目には見えないところに、リリーとジェームズの最後の姿が横たわっている。もう骨になっているに違いない。塵ちりに帰ったかもしれない。生き残った息子がこんなに近くに立っているというのに――二人の犠牲ぎせいのおかげで心臓はまだ脈打ち、生きているというのに――この瞬間しゅんかん、その息子が、雪の下で二人と一いっ緒しょに眠っていたいとまで願っているというのに――何も知らず、無関心に横たわっている。
生于1960年3月27日 生于1960年1月30日
卒于1981年10月31日 卒于1981年10月31日