「ハリー、止まって」
「どうかした」
二人が出口に向かって、アボット某なにがしの墓のところまで戻ったところだった。
「あそこに誰かいるわ。私たちを見ている。私にはわかるのよ。ほら、あそこ、植え込みのそば」
二人は身を寄せ合ってじっと立ち止まったまま、墓地と外とを仕切る黒々とした茂みを見つめた。ハリーには何も見えない。
「ほんとに」
「何かが動くのが見えたの。ほんとよ、見えたわ……」
ハーマイオニーはハリーから離はなれて、自分の杖腕つえうでを自由にした。
「僕たち、マグルの姿なんだよ」ハリーが指摘してきした。
「あなたのご両親の墓に、花を手た向むけていたマグルよ ハリー、間違いないわ。誰かあそこにいる」
ハリーは「魔ま法ほう史し」を思い出した。墓地にはゴーストが取とり憑ついているとか。もしかしたら―― しかし、そのとき、サラサラと音がして、ハーマイオニーの指差す植え込みから落ちた雪が、小さな雪煙ゆきけむりを上げるのが見えた。ゴーストは、雪を動かすことはできない。
「猫だよ」
一瞬いっしゅん間を置いて、ハリーが言った。
「小鳥かもしれない。死し喰くい人びとだったら、僕たち、もう死んでるさ。でも、ここを出よう。また『透明とうめいマント』を被かぶればいい」
墓地から出る途中、二人は何度も後ろを振ふり返った。いかにも元気を装よそおってハーマイオニーには大丈夫だと請うけ合あってはみたものの、ハリーの内心はそれほど元気でもなかった。だから、小開こびらき門からつるつる滑すべる歩道に出たときには、心からほっとした。二人は再び「透明マント」を被った。パブは前よりも混み、中からは、さっき教会に近づいたときに聞こえていたクリスマス・キャロルを歌う大勢の声が響ひびいてきた。その声を聞いてハリーは、パブに避難ひなんしようと言おうかと思った。しかし、それより早く、ハーマイオニーが「こっちへ行きましょう」と小声で言いながら、ハリーを暗い小道に引っ張り込んだ。村に入ってきたときとは、反対方向の村はずれに向かう道だ。家や並なみが切れる先で、小道が再び田園でんえんへと広がっているのが見えた。色とりどりの豆電球が輝かがやき、カーテンにクリスマスツリーの影が映うつる窓辺まどべをいくつも通り過ぎて、二人は不自然でない程度に急いで歩いた。
「バチルダの家を、どうやって探せばいいのかしら」
小刻こきざみに震ふるえながら、ハーマイオニーは何度も後ろを振り返っていた。
「ハリー、どう思う ねえ、ハリー」
ハーマイオニーはハリーの腕を引っ張ったが、ハリーは上の空で、家並みのいちばん端はしに建っている黒い塊かたまりのほうをじっと見つめていた。次の瞬間しゅんかん、ハリーは急に足を速めた。引っ張られたハーマイオニーは、その拍子ひょうしに、氷に足を取られた。