「ハリー――」
「見て……ハーマイオニー、あれを見て……」
「あれって……あっ」
あの家が、見えたのだ。「忠誠ちゅうせいの術じゅつ」は、ジェームズとリリーの死とともに消えたに違いない。ハグリッドが瓦礫がれきの中からハリーを連れ出して以来十六年間、その家の生垣いけがきは伸び放題ほうだいになっていた。腰の高さまで伸びた雑草の中に、瓦礫が散らばっている。家の大部分はまだ残っていたが、黒ずんだ蔦つたと雪とに覆おおいつくされている。いちばん上の階の右側だけが吹き飛ばされていた。ハリーは、きっとそこが、呪のろいの跳はね返った場所だろうと思った。ハリーとハーマイオニーは門の前にたたずみ、壊こわれた家を見つめた。かつては、同じ並びに建つ家と同じような家だったに違いない。
「どうして誰も建て直さなかったのかしら」ハーマイオニーがつぶやいた。
「建て直せないんじゃないかな」ハリーが答えた。「闇やみの魔術まじゅつの傷と同じで、元通りにはできないんじゃないか」
ハリーは「透明とうめいマント」の下からそっと手を出して、雪まみれの錆さびついた門を握にぎりしめた。開けようと思ったわけではなく、ただ、その家のどこかに触ふれたかっただけだった。
「中には入らないでしょうね 安全そうには見えないわ。もしかしたら――まあ、ハリー、見て」
ハリーが門に触れたことが引き金になったのだろう。目の前のイラクサや雑草の中から、桁けたはずれに成長の早い花のように、木の掲けい示じ板ばんがぐんぐん迫せり上がってきた。金色の文字で何か書いてある。
整然せいぜんと書かれた文字の周りに、「生き残った男の子」の逃れた場所を見ようとやって来た魔女、魔法使いたちが書き加えた落書きが残っていた。「万年インク」で自分の名前を書いただけの落書きもあれば、板にイニシャルを刻きざんだもの、言葉を書き残したものもある。十六年分の魔法落書きの上に一段と輝かがやいている真新しい落書きは、みな同じような内容だった。
「ハリー、いまどこにいるかは知らないけれど、幸運を祈いのる」「ハリー、これを読んだら、私たち、みんな応援おうえんしているからね」「ハリー・ポッターよ、永遠なれ」
「掲示の上に書いちゃいけないのに」ハーマイオニーが憤慨ふんがいした。
しかしハリーは、ハーマイオニーににっこり笑いかけた。