「この人は、僕一人に来てほしいんだ」
「どうして」
ハーマイオニーの声は、蝋ろう燭そくに照らされた部屋にはっきりと鋭く響ひびいた。大きな音が聞こえたのか、老魔女は微かすかに首を振った。
「ダンブルドアが、剣つるぎを僕に、僕だけに渡すようにって、そう言ったんじゃないかな」
「この人は、あなたが誰なのか、本当にわかっていると思う」
「ああ」ハリーは、自分の目を見つめている白はく濁だくした目を見下ろしながら言った。「わかっていると思うよ」
「まあ、それならいいけど。でもハリー、早くしてね」
「案内してください」ハリーがバチルダに言った。
バチルダは理解したらしく、ぎごちない足取りでハリーのそばを通り過ぎ、ドアに向かった。ハリーはハーマイオニーをちらりと振り返って、大丈夫だからと微笑ほほえんだが、蝋燭に照らされた不潔ふけつな部屋の真ん中で、寒そうに両腕を体に巻きつけて本ほん棚だなのほうを見ているハーマイオニーに見えたかどうかは定かではなかった。部屋から出るとき、ハリーは、ハーマイオニーにもバチルダにも気づかれないように、正体不明の盗っ人の写真が入った銀の写真立てを、上着の内側に滑すべり込ませた。
階段は狭せまく、勾こう配ばいも急で、バチルダがいまにも落ちてきそうだった。ハリーは、自分の上に仰向あおむけに落ちてこないように、太った尻しりを両手で支えてやろうかと半なかば本気でそう思った。バチルダは少しあえぎながら、ゆっくりと二階の踊おどり場ばまで上り、そこから急に右に折れて、天井の低い寝室へとハリーを導いた。
真っ暗で、ひどい悪臭がした。バチルダがドアを閉める前に、ベッドの下から突き出ているおまるがチラッと見えたが、それさえもすぐに闇やみに飲まれてしまった。
「ルーモス、光よ」ハリーの杖つえに灯あかりが点ともった。とたんにハリーはどきりとした。真っ暗になってからほんの数秒すうびょうだったのに、バチルダがすぐそばに来ていた。しかもハリーには、近づく気配さえ感じ取れなかった。
「ポッターか」バチルダが囁ささやいた。
「そうです」
バチルダは、ゆっくりと重々しくうなずいた。ハリーは、分ぶん霊れい箱ばこが自分の心臓より速く拍はく動どうするのを感じた。心をかき乱す、気持の悪い感覚だ。
「僕に、何か渡すものがあるのですか」
ハリーが聞いたが、バチルダはハリーの杖灯りが気になるようだった。
「僕に、何か渡すものがあるのですか」ハリーはもう一度聞いた。
するとバチルダは目を閉じた。そして、その瞬間しゅんかんにいくつものことが同時に起こった。ハリーの傷きず痕あとがチクチク痛み、分霊箱が、ハリーのセーターの前がはっきり飛び出るほどぴくりと動いて、悪臭のする暗い部屋が一瞬いっしゅん消え去った。ハリーは喜びに心が躍おどり、冷たい甲かん高だかい声でしゃべった。
「こいつを捕つかまえろ」