饐すえた臭においのする暗くら闇やみで、ハリーは突然我に返った。ナギニはハリーを放はなしていた。ようやく立ち上がったハリーが目にしたものは、踊おどり場ばからの明かりを背にした大蛇の輪りん郭かくだった。大蛇が襲いかかり、ハーマイオニーが悲鳴ひめいを上げて横に飛び退のくのが見えた。ハーマイオニーの放はなった呪じゅ文もんが逸それて、カーテンの掛かかった窓を打ち、ガラスが割れて凍こおった空気が部屋に流れ込んだ。降りかかるガラスの破片をまた浴あびないよう、ハリーが身をかわしたとたん、鉛筆のようなものに足を取られて滑すべった――ハリーの杖だ――。
ハリーは屈かがんで杖つえを拾い上げた。しかし部屋の中には、尾をくねらせる大蛇だいじゃしか見えず、ハーマイオニーの姿はどこにもなかった。ハリーは刹那せつなに、最悪の事態じたいを考えたが、そのときバーンという音とともに赤い光線が閃ひらめき、大蛇が宙ちゅうを飛んだ。太い胴体を幾重いくえにも巻きながら天井まで吹っ飛んでいく大蛇が、ハリーの顔をいやというほど擦こすった。ハリーは杖を上げたが、そのとき傷きず痕あとが、ここ何年もなかったほど激はげしく焼けるように痛んだ。
「あいつが来る ハーマイオニー、あいつが来るんだ」
ハリーが叫さけぶのと同時に大蛇が落下してきて、シューシューと荒々しい息を吐はいた。何もかもめちゃめちゃだった。大蛇は壁かべの棚たなを打ち壊こわし、陶器とうきのかけらが四方八方に飛び散った。ハリーはベッドを飛び越し、ハーマイオニーだとわかる黒い影をつかんだ――。ベッドの反対側にハーマイオニーを引っ張っていこうとしたが、ハーマイオニーは痛みで叫び声を上げた。大蛇が再び鎌かま首くびを持ち上げた。しかし、大蛇よりもっと恐ろしいものがやって来ることを、ハリーは知っていた。もう門まで来ているかもしれない。傷痕の痛みで、頭が真っ二つに割れそうだ――。
ハーマイオニーを引きずり、部屋から逃げ出そうと走り出したハリーに、大蛇が襲おそいかかってきた。そのとき、ハーマイオニーが叫んだ。
「コンフリンゴ 爆発ばくはつせよ」
呪文じゅもんは部屋中を飛び回り、洋よう箪だん笥すの鏡を爆発させ、床と天井の間を跳はねながら二人に向かって撥はね返ってきた。ハリーは、手の甲こうが呪文の熱で焼けるのを感じた。ハーマイオニーを引っ張って、ベッドから壊れた化け粧しょう台だいに飛び移り、ハリーは破やぶれた窓から一直線に無むの世界に飛び込んだ。窓ガラスの破片がハリーの頬ほおを切った。ハーマイオニーの叫び声を闇やみに響ひびかせ、二人は空中で回転していた……。