「分ぶん霊れい箱ばこをあなたから外はずせなかったわ」
ハーマイオニーの言葉で、ハリーは、話題を変えたがっているのがわかった。
「貼はりついていたの。あなたの胸に。ごめんなさい。痣あざが残ったわ。外はずすのに『切せつ断だんの呪じゅ文もん』を使わなければならなかったの。それに蛇へびがあなたを噛かんだけど、傷をきれいにしてハナハッカを塗ぬっておいたわ……」
ハリーは着ていた汗まみれのシャツを引っ張って、中を覗のぞいてみた。心臓の上に、ロケットが焼きつけた楕だ円えん形けいの赤あか痣あざがあった。腕には、半分治りかけの噛み傷が見えた。
「分ぶん霊れい箱ばこはどこに置いたの」
「バッグの中よ。しばらくは離はなしておくべきだと思うの」
ハリーは、枕まくらに頭を押しつけ、ハーマイオニーのやつれた土つち気け色いろの顔を見た。
「ゴドリックの谷に行くべきじゃなかった。僕が悪かった。みんな僕のせいだ。ごめんね、ハーマイオニー」
「あなたのせいじゃないわ。私も行きたかったんですもの。ダンブルドアがあなたに渡そうと、剣つるぎをあそこに置いたって、本気でそう思ったの」
「うん、まあね……二人とも間違っていた。そういうことだろ」
「ハリー、何があったの バチルダがあなたを二階に連れていったあと、何があったの 蛇がどこかに隠れていたの 急に現れてバチルダを殺して、あなたを襲おそったの」
「違う」ハリーが言った。「バチルダが蛇だった……というか、蛇がバチルダだった……はじめからずっと」
「な――何ですって」
ハリーは目をつむった。バチルダの家の悪臭がまだ体に染しみついているようで、何もかもが生々しく感じられた。
「バチルダは、だいぶ前に死んだに違いない。蛇は……蛇はバチルダの体の中にいた。『例のあの人』が、蛇をゴドリックの谷に置いて待ち伏せさせたんだ。君が正しかったよ。あいつは、僕が戻ると読んでいたんだ」
「蛇がバチルダの中にいた、ですって」
ハリーは目を開けた。ハーマイオニーは、いまにも吐はきそうな顔をしていた。
「僕たちの予想もつかない魔法に出会うだろうって、ルーピンが言ったね」
ハリーが言った。
「あいつは、君の前では話をしたくなかったんだ。蛇語へびごだったから。全部蛇語だった。僕は気づかなかった。でも、僕にはあいつの言うことがわかったんだ。僕たちが二階の部屋に入ったとき、あいつは『例のあの人』と交信した。僕は、頭の中でそれがわかったんだ。『あの人』が興こう奮ふんして、僕を捕まえておけって言ったのを感じたんだ……それから……」