ハリーは、バチルダの首から大だい蛇じゃが現れる様子を思い出した。ハーマイオニーに、すべてを詳くわしく話す必要はない。
「……それからバチルダの姿が変わって、蛇になって襲ってきた」
ハリーは噛かみ傷を見た。
「あいつは僕を殺す予定ではなかった。『例のあの人』が来るまで、僕をあそこに足止めする役割だった」
あの大蛇だいじゃを仕留めていたなら。それなら、あれほどの犠牲ぎせいを払っても行ったかいがあったのに……自分がいやになり、ハリーはベッドに起き上がって毛布を跳はね退のけた。
「ハリー、だめよ。寝てなくちゃだめ」
「君こそ眠る必要があるよ。気を悪くしないでほしいけど、ひどい顔だ。僕は大丈夫。しばらく見張りをするよ。僕の杖つえは」
ハーマイオニーは答えずに、ただハリーの顔を見た。
「ハーマイオニー、僕の杖はどこなの」
ハーマイオニーは唇くちびるを噛んで、目に涙を浮かべた。
「ハリー……」
「僕の杖は、どこなんだ」
ハーマイオニーはベッドの脇わきに手を伸ばして、杖を取り出して見せた。
柊ひいらぎと不ふ死し鳥ちょうの杖は、ほとんど二つに折れていた。不死鳥の羽は根ねの一ひと筋すじが、細々と二つをつないでいた。柊の木は完全に割れていた。ハリーは、深傷ふかでを負った生き物を扱うような手つきで、杖を受け取った。何をどうしていいかわからなかった。言い知れない恐怖で、すべてがぼやけていた。それからハリーは、杖をハーマイオニーに差し出した。
「お願いだ。直して」
「ハリー、できないと思うわ。こんなふうに折れてしまって――」
「お願いだよ、ハーマイオニー、やってみて」
「レ――レパロ 直れ」
ぶら下がっていた半分が、くっついた。ハリーは杖を構えた。
「ルーモス 光よ」
杖は弱々しい光を放はなったが、やがて消えた。ハリーは杖を、ハーマイオニーに向けた。