「エクスペリアームス 武ぶ器きよ去れ」
ハーマイオニーの杖はぴくりと動いたが、手を離はなれはしなかった。弱々しく魔法をかけようとした杖は、負担に耐たえきれずにまた二つに折れた。ハリーは愕がく然ぜんとして杖を見つめた。目の前で起こったことが信じられなかった……あれほどさまざまな場面を生き抜いた杖が……。
「ハリー」ハーマイオニーが囁ささやいた。
ハリーにはほとんど聞き取れないほど小さな声だった。
「ごめんなさい。ほんとにごめんなさい。私が壊こわしたと思うの。逃げるとき、ほら、蛇へびが私たちを襲おそってきたので、『爆発ばくはつ呪じゅ文もん』をかけたの。それが、あちこち撥はね返って、それできっと――きっとそれが当たって――」
「事故だった」
ハリーは無意識に答えた。頭が真っ白で、何も考えられなかった。
「なんとか――なんとか修理する方法を見つけるよ」
「ハリー、それはできないと思うわ」
ハーマイオニーの頬ほおを涙がこぼれ落ちていた。
「覚えているかしら……ロンのこと 自動車の衝突しょうとつで、あの人の杖つえが折れたときのこと どうしても元通りにならなくて、新しいのを買わなければならなかったわ」
ハリーは、誘ゆう拐かいされてヴォルデモートの人質になっているオリバンダーのことや、死んでしまったグレゴロビッチのことを思った。どうやったら新しい杖が手に入るというのだろう
「まあね」ハリーは平気な声を装よそおった。「それじゃ、いまは君のを借りるよ。見張りをする間」
涙で顔を光らせ、ハーマイオニーは自分の杖を渡した。ハリーはベッド脇わきに座っているハーマイオニーをそのままにして、そこから離はなれた。とにかくハーマイオニーから離れたかった。