「ハリー」
ハーマイオニーは、自分が貸した杖でハリーに呪のろいをかけられるのではないかというような、怯おびえた顔をしていた。涙の跡あとが残る顔で、ハーマイオニーはハリーの脇わきにうずくまった。震ふるえる両手に紅茶のカップを二つ持ち、腋わきの下に何か大きな物を抱えている。
「ありがとう」ハリーは紅茶を受け取りながら言った。
「話してもいいかしら」
「ああ」ハリーはハーマイオニーの気持を傷つけたくなかったので、そう言った。
「ハリー、あなたは、あの写真の男が誰なのか、知りたがっていたわね。あの……私、あの本を持っているわ」
ハーマイオニーは、おずおずとハリーの膝ひざに本を押しつけた。真新しい「アルバス・ダンブルドアの真っ白な人生と真っ赤な嘘うそ」だ。
「どこで――どうやって――」
「バチルダの居間に置いてあったの……本の端はしからこのメモが覗のぞいていたわ」
黄緑色のとげとげしい文字で書かれた二、三行のメモを、ハーマイオニーが読み上げた。
「『バティさん、お手伝いいただいてありがとざんした。ここに一冊献けん本ぽんさせていただくざんす。気に入っていただけるといいざんすけど。覚えてないざんしょうが、あなたは何もかも言ってくれたざんすよ。リータ』。この本は、本物のバチルダがまだ生きていたときに、届いたのだと思うわ。でも、たぶん読める状態じょうたいではなかったのじゃないかしら」
「たぶん、そうだろうな」ハリーは表紙のダンブルドアの顔を見下ろし、残忍ざんにんな喜びが一度に湧わき上がるのを感じた。ダンブルドアがハリーに知られることを望んだかどうかは別として、ハリーに話そうとしなかったことのすべてが、いまやハリーの手の中うちにある。
「まだ、私のことをとても怒っているのね」ハーマイオニーが言った。
ハリーが顔を上げると、ハーマイオニーの目からまた新しい涙が流れ落ちるのが見えた。ハリーは、怒りが自分の顔に表れていたに違いないと思った。
「違うよ」ハリーは静かに言った。「ハーマイオニー、違うんだ。あれは事故だったってわかっている。君は、僕たちがあそこから生きて帰れるようにがんばったんだ。君はすごかった。君があの場に助けにきてくれなかったら、僕はきっと死んでいたよ」
涙に濡ぬれたハーマイオニーの笑顔に、ハリーは笑顔で応こたえようと努め、それから本に注意を向けた。背表紙はまだ硬かたく、本が一度も開かれていないのは明らかだった。ハリーは写真を探してぱらぱらとページをめくった。探していた一枚は、すぐに見つかった。若き日のダンブルドアが、ハンサムな友人と一緒いっしょに大笑いしている。どんな冗談じょうだんで笑ったのかは追憶ついおくのかなただ。ハリーは写真の説明に目を向けた。
アルバス・ダンブルドア――母親の死後間もなく、友人のゲラート・グリンデルバルドと。