「ハリー――」
しかし、ハリーは首を振ふった。ハリーの胸の中で、確固かっことした何かが崩くずれ落ちた。ロンが去ったときに感じた気持と、まったく同じだった。ハリーはダンブルドアを信じていた。ダンブルドアこそ、善と知恵そのものであると信じていた。すべては灰燼かいじんに帰きした。これ以上失うものがあるのだろうか ロン、ダンブルドア、不ふ死し鳥ちょうの尾お羽ば根ねの杖つえ……。
「ハリー――」ハーマイオニーはハリーの心の声が聞こえたかのように言った。「聞いてちょうだい。これ――この本は、読んで楽しい本じゃないわ――」
「――ああ、そうみたいだね――」
「――でも忘れないで、ハリー、これはリータ・スキーターの書いたものよ」
「君も、グリンデルバルドへの手紙を読んだろう」
「ええ、私――読んだわ」ハーマイオニーは冷えた両手で紅茶のカップを包み、動揺どうようした表情で口ごもった。「あれが最悪の部分だと思うわ。バチルダはあれが机上きじょうの空論くうろんにすぎないと思ったに違いないわ。でも『より大きな善のために』はグリンデルバルドのスローガンになって、後年の残虐ざんぎゃくな行為こういを正当化するために使われた。それに……あれによると……ダンブルドアがグリンデルバルドにその考えを植えつけたみたいね。『より大きな善のために』は、ヌルメンガードの入口にも刻きざまれていると言われているけれど」
「ヌルメンガードって何」
「グリンデルバルドが、敵対てきたいする者を収容しゅうようするために建てた監獄かんごくよ。ダンブルドアに捕まってからは、自分が入る羽は目めになったけれど。とにかく、ダンブルドアの考えがグリンデルバルドの権力掌握しょうあくを助けたなんて、考えるだけで恐ろしいことよ。でも、もう一方では、さすがのリータでさえ、二人が知り合ったのは、ひと夏のほんの二か月ほどだったということを否定できないし、二人とも、とても若いときだったし、それに……」
「君はそう言うだろうと思った」ハリーが言った。ハーマイオニーに自分の怒りのとばっちりを食わせたくはなかったが、静かな声で話すのは難しかった。
「『二人は若かった』って、そう言うと思ったよ。でも、いまの僕たちと同じ歳だった。それに、僕たちはこうして闇やみの魔術まじゅつと戦うために命を賭かけているのに、ダンブルドアは新しい親友と組んで、マグルの支配者になる企たくらみをめぐらしていたんだ」
ハリーは、もはや怒りを抑えておけなかった。少しでも発散させようとして、ハリーは立ち上がって歩き回った。