「ダンブルドアの書いたことを擁護ようごしようとは思わないわ」ハーマイオニーが言った。「『支配する権利』なんてばかげたこと、『魔法は力なり』とおんなじだわ。でもハリー、母親が死んだばかりで、ダンブルドアは一人で家に縛しばりつけられて――」
「一人で 一人なもんか 弟と妹が一緒いっしょだった。監禁かんきんし続けたスクイブの妹と――」
「私は信じないわ」ハーマイオニーも立ち上がった。「その子のどこかが悪かったにせよ、スクイブじゃなかったと思うわ。私たちの知っているダンブルドアは、絶対そんなことを許すはずが――」
「僕たちが知っていると思っていたダンブルドアは、力ずくでマグルを征服せいふくしようなんて考えなかった」ハリーは大声を出した。
その声は何もない山頂を越えて響ひびき、驚いたクロウタドリが数羽、鳴きながら真しん珠じゅ色いろの空にくるくると舞い上がった。
「ダンブルドアは変わったのよ、ハリー、変わったんだわ それだけのことなのよ 十七歳のときにはこういうことを信じていたかもしれないけれど、それ以後の人生は、闇やみの魔術まじゅつと戦うことに捧ささげたわ ダンブルドアこそグリンデルバルドを挫くじいた人、マグルの保ほ護ごとマグル生まれの権利を常に支持した人、最初から『例のあの人』と戦い、打倒しようとして命を落とした人なのよ」
二人の間に落ちているリータの著書ちょしょから、アルバス・ダンブルドアの顔が二人に向かって悲しげに微笑ほほえんでいた。
「ハリー、言わせてもらうわ。あなたがそんなに怒っている本当の理由は、ここに書かれていることを、ダンブルドア自身が、いっさいあなたに話さなかったからだと思うわ」
「そうかもしれないさ」ハリーは叫さけんだ。
そして、両腕で頭を抱え込んだ。怒りを抑えようとしているのか、それとも失望の重さから自らを護まもろうとしているのか、自分にもわからなかった。
「ハーマイオニー、ダンブルドアが僕に何を要求したか言ってやる 命を賭かけるんだ、ハリー 何度も 何度でも わしが何もかもきみに説明するなんて期待するな ひたすら信用しろ、わしは何もかも納得なっとくずくでやっているのだと信じろ わしがきみを信用しなくとも、わしのことは信用しろ 真実のすべてなんて一度も 一度も」
神経が昂たかぶって、ハリーはかすれ声になった。真っ白な何もない空間で、二人は立ったまま見つめ合っていた。この広い空の下で、ハリーは自分たちが虫けらのように取るに足らない存在だと感じた。
「ダンブルドアはあなたのことを愛していたわ」ハーマイオニーが囁ささやくように言った。「私にはそれがわかるの」
ハリーは両腕を頭から離はなした。
「ハーマイオニー、ダンブルドアが誰のことを愛していたのか、僕にはわからない。でも、僕のことじゃない。愛なんかじゃない。こんなめちゃくちゃな状態に僕を置き去りにして。ダンブルドアは、僕なんかよりゲラート・グリンデルバルドに、よっぽど多く、本当の考えを話していたんだ」
ハリーは、さっき雪の上に落としたハーマイオニーの杖つえを拾い上げ、再びテントの入口に座り込んだ。
「紅茶をありがとう。僕、見張りを続けるよ。君は中に入って暖かくしていてくれ」
ハーマイオニーはためらったが、一人にしてくれと言われたのだと悟さとり、本を拾い上げてハリーの横を通り、テントに入ろうとした。そのときハーマイオニーは、ハリーの頭のてっぺんを軽くなでた。ハリーはその手の感触かんしょくを感じて目を閉じた。ハーマイオニーの言うことが真実であってほしい――ダンブルドアは本当にハリーのことを大切に思っていてくれたのだ――ハリーはそう願う自分を憎んだ。