真夜中にハーマイオニーと見張りを交代したときには、もう雪が降ふり出していた。ハリーは、心がかき乱される、混乱した夢を見た。ナギニが、最初は巨大な割れた指輪ゆびわから、次はクリスマス・ローズの花輪から出入りする夢だった。遠くで誰かがハリーを呼んだような気がしたり、あるいはテントをはためかせる風を足音か人声と勘違かんちがいして、ハリーはそのたびにどきっとして目を覚ました。
とうとう暗いうちに起き出したハリーは、ハーマイオニーのところに行った。ハーマイオニーは、テントの入口にうずくまって、杖灯つえあかりで「魔ま法ほう史し」を読んでいた。雪はまだしんしんと降っていて、ハリーが早めに荷造にづくりをして移動しようと言うと、ハーマイオニーはほっとしたように受け入れた。
「どこかもっと、雨あめ露つゆをしのげるところに行きましょう」
ハーマイオニーはパジャマの上にトレーナーを着込み、震ふるえながら賛成した。
「誰かが、外を動き回っている音が聞こえたような気がしてしょうがなかったの。一度か二度、人影を見たような気もしたわ」
ハリーはセーターを着込む途中で動きを止め、ちらっとテーブルの上の「かくれん防ぼう止し器き」を見た。しかし、動きもなく、静かだった。
「きっと気のせいだとは思うけど――」
ハーマイオニーは不安そうな顔で言った。
「闇やみの中の雪って、見えないものを見せるから……でも、念のために、『透明とうめいマント』を被かぶったまま『姿すがたくらまし』したほうがいいわね」
三十分後、テントを片付けて、ハリーは分ぶん霊れい箱ばこを首に掛かけ、ハーマイオニーはハリーとビーズバッグを握にぎりしめて、「姿くらまし」した。いつもの締しめつけられるような感覚に飲み込まれ、ハリーの両足は雪面を離はなれたかと思ううちに固い地面を打った。木の葉に覆おおわれた凍結とうけつした地面のようだった。
「ここはどこ」
ハリーは、いままでとは違う木々の生い茂った場所を、目を凝こらして見回しながら、ビーズバッグを開いてテントの柱を引っ張り出しているハーマイオニーに問いかけた。
「グロスター州のディーンの森よ。一度パパやママと一緒いっしょに、キャンプに来たことがあるの」
ここでも、あたり一面の木々に雪が積つもり、刺さすような寒さだったが、少なくとも風からは護まもられていた。二人はほとんど一日中テントの中で、ハーマイオニーお得意の明るいリンドウ色の炎の前にうずくまって、暖を取りながら過ごした。この炎は、広ひろ口くち瓶びんにすくい取って運べる便利なものだった。ハリーは、束の間ながら患わずらっていた重い病気から立ち直ろうとしているような気分だった。ハーマイオニーが細かい気遣きづかいを見せてくれることで、ますますそんな気になった。午後にはまた雪が舞い、ハリーたちのいる木々に囲まれた空き地も、粉こなを撒まいたように新雪で覆われた。