ハリーの心臓が喉元のどもとまで飛び出した。池の縁ふちにひざまずいて、池の底にできるだけ光が当たるように杖を傾けた。深紅しんくの輝かがやき……柄つかに輝くルビーを嵌はめ込んだ剣つるぎ……グリフィンドールの剣が、森の池の底に横たわっていた。
ハリーは、ほとんど息を止めて剣を覗のぞき込んだ。どうしてこんなことが 自分たちが野宿のじゅくしている場所の、こんな近くの池に横たわっているなんて、どうして 未知の魔法が、ハーマイオニーをこの地点に連れてきたのだろうか それとも、ハリーが守しゅ護ご霊れいだと思った牝鹿めじかは、この池の守人もりびとなのだろうか もしかして、ハリーたちがここにいると知って、二人が到着したあとに、この池に剣つるぎが入れられたのだろうか だとしたら、剣をハリーに渡そうとした人物はどこにいるのだ ハリーはもう一度杖つえを周りの木々や潅木かんぼくに向け、人影はないか、目が光ってはいないか、と探したが、誰の姿も見えなかった。それでもやはりハリーは、凍こおった池の底に横たわる剣にもう一度目を向けながら、高揚こうようした気持の中に一抹いちまつの恐怖がふくれ上がってくるのを感じた。
ハリーは杖を銀色の十字に向けて、つぶやくように唱となえた。
「アクシオ、剣よ来い」
剣は微動びどうだにしない。ハリーも動くとは期待していなかった。そんなに簡単に動くくらいなら、剣は凍こおった池の底ではなく、ハリーが拾い上げられるような地面に置かれていただろう。ハリーは、以前、剣のほうからハリーのところに現れたときのことを必死に思い出しながら、氷の周囲を歩きはじめた。あのときのハリーは、恐ろしく危険な状況に置かれ、救いを求めていた。
「助けて」
ハリーはつぶやいた。しかし剣は、無関心に、じっと池の底に横たわったままだった。
ハリーが剣を手に入れたあのとき、ダンブルドアは何と言ったっけ ハリーは再び歩きながら、思い出そうとした。真㫠 銀色の牝鹿 The Silver Doe(4)