ハリーが服を脱いでいると、ふくろうがどこかで鳴いた。ハリーはヘドウィグを思い出して、胸が痛んだ。いまやハリーは、歯の根も合わないほどに震ふるえていたが、最後の一枚を残して裸足はだしで雪に立つところまで脱ぬぎ続けた。杖つえと母親の手紙、シリウスの鏡のかけら、そして古いスニッチの入った巾きん着ちゃく袋ぶくろを服の上に置き、ハリーはハーマイオニーの杖を氷に向けた。
「ディフィンド 裂さけよ」
氷の砕くだける音が、静寂せいじゃくの中で弾丸のように響ひびいた。池の表面が割れ、黒っぽい氷の塊かたまりが、波立った池の面おもてに揺ゆれた。ハリーの判断では、池はそれほど深くはないが、それでも剣つるぎを取り出すためには、完全に潜もぐらなければならないだろう。
これからすることをいくら考えてみたところで、やりやすくなるわけでもなく、水が温ぬるむわけでもない。ハリーは池の縁ふちに進み出て、ハーマイオニーの杖を、杖灯つえあかりを点つけたままそこに置いた。これ以上どこまで凍こごえるのだろう、どこまで激はげしく震ふるえることになるのだろう、そんなことは想像しないようにしながら、ハリーは飛び込んだ。
体中の毛穴という毛穴が、抗議こうぎの叫さけびを上げた。氷のような水に肩までつかると、肺の中の空気が凍こおりついて固まるような気がした。ほとんど息ができない。激しい震えで波立った水が、池の縁を洗った。かじかんだ両足で、ハリーは剣を探った。潜るのは一回だけにしたかった。
あえぎ、震えながら、ハリーは潜る瞬間しゅんかんを刻こく一いっ刻こくと先延さきのばしにしていた。ついにやるしかないと自分に言い聞かせ、ハリーはあらんかぎりの勇気を振ふりしぼって潜った。
冷たさがハリーを責め苛さいなみ、火のようにハリーを襲おそった。暗い水を押し分けて底にたどり着き、手を伸ばして剣を探りながら、ハリーは脳みそまで凍りつくような気がした。指が剣の柄つかを握にぎった。ハリーは剣を引っ張り上げた。
そのとき、何かが首を絞しめた。潜ったときには何も体に触ふれるものはなかった。たぶん水草だろうと思い、ハリーは空あいている手でそれを払い退のけようとした。水草ではなかった。分霊ぶんれい箱ばこの鎖くさりがきつく絡からみつき、ゆっくりとハリーの喉笛のどぶえを締しめ上げていた。
ハリーは水面に戻ろうと、がむしゃらに水を蹴けったが、池の岩場のほうへと進むばかりだった。もがき、息を詰まらせながら、ハリーは巻きついている鎖をかきむしった。しかし、凍りついた指は鎖を緩ゆるめることもできず、いまやハリーの頭の中には、パチパチと小さな光が弾はじけはじめた。溺おぼれるんだ。もう残された手段はない。ハリーには何もできない。胸の周りを締めつけているのは、「死」の腕に違いない……。