ぐしょ濡ぬれで咳せき込み、ゲーゲー吐はきながら、こんなに冷えたのは生まれて初めてだというほど凍え、ハリーは雪の上に腹ばいになって我に返った。どこか近くで、もう一人の誰かがあえぎ、咳き込みながらよろめいている。ハーマイオニーがまた来てくれたんだ。蛇へびに襲われたときに来てくれたように……でもこの音はハーマイオニーのようではない。低い咳せき、足音の重さからしても、違う……。
ハリーには、助けてくれたのが誰かを見るために、頭を持ち上げる力さえなかった。震える片手を喉まで上げ、ロケットが肉に食い込んだあたりに触れるのがせいぜいだった。ロケットはそこになかった。誰かがハリーを解とき放はなしたのだ。そのとき、ハリーの頭上で、あえぎながら話す声がした。
「おい――気は――確かか」
その声を聞いたショックがなかったら、ハリーは起き上がる力が出なかっただろう。歯の根も合わないほど震ふるえながら、ハリーはよろよろと立ち上がった。目の前にロンが立っていた。服を着たままだが、びしょ濡ぬれで、髪かみが顔に張りついている。片手にグリフィンドールの剣つるぎを持ち、もう片方に鎖くさりの切れた分ぶん霊れい箱ばこをぶら下げている。
「まったく、どうして――」
ロンが分霊箱を持ち上げて、息を継ぎながら言った。ロケットが、下へ手たな催さい眠みん術じゅつの真ま似ね事ごとのように、短い鎖の先で前後に揺ゆれていた。
「潜もぐる前に、こいつを外はずさなかったんだ」
ハリーは答えられなかった。銀色の牝鹿めじかなど、ロンの出現に比べれば何でもない。ハリーは信じられなかった。寒さに震えながら、ハリーは池の縁ふちに重ねて置いてあった服をつかんで、着はじめた。一枚、また一枚と、セーターを頭から被かぶるたびにロンの姿が見えなくなり、そのたびにロンが消えてしまうのではないかと半はん信しん半はん疑ぎで、ハリーはロンを見つめていた。しかし、ロンは本物に違いない。池に飛び込んで、ハリーの命を救ったのだ。
「き、君だったの」
歯をガチガチ言わせながら、ハリーはやっと口を開いた。絞しめ殺されそうになったために、いつもより弱々しい声だった。
「まあ、そうだ」ロンは、ちょっとまごつきながら言った。
「き、君が、あの牝鹿を出したのか」
「え もちろん違うさ 僕は、君がやったと思った」
「僕の守しゅ護ご霊れいは牡鹿おじかだ」
「ああ、そうか。どっか違うと思った。角つのなしだ」
ハリーはハグリッドの巾着きんちゃくを首に掛かけ直し、最後の一枚のセーターを着て、屈かがんでハーマイオニーの杖つえを拾い、もう一度ロンと向き合った。