「来いよ」
ハリーは先に立ってそこに行き、岩の表面から雪を払い退のけ、手を差し出して分ぶん霊れい箱ばこを受け取った。しかし、ロンが剣つるぎを差し出すと、ハリーは首を振ふった。
「いや、君がやるべきだ」
「僕が」
ロンは驚いた顔をした。
「どうして」
「君が、池から剣を取り出したからだ。君がやることになっているのだと思う」
ハリーは、親切心や気前のよさからそう言ったわけではなかった。牝鹿めじかが間違いなく危険なものではないと思ったと同様、ロンがこの剣を振ふるうべきだという確信があった。ダンブルドアは少なくともハリーに、ある種の魔法について教えてくれた。ある種の行為こういが持つ、計はかり知れない力という魔法だ。
「僕がこれを開く」
ハリーが言った。
「そして君が刺さすんだ。一気にだよ、いいね 中にいるものが何であれ、歯向かってくるからね。日記の中のリドルのかけらも、僕を殺そうとしたんだ」
「どうやって開くつもりだ」怯おびえた顔のロンが聞いた。
「開けって頼むんだ。蛇語へびごで」
ハリーが言った。答えはあまりにもすらすらと口を突いて出てきた。きっと心のどこかで、自分にははじめからそのことがわかっていたのだ、と思った。たぶん、ナギニと数日前に出会ったことで、それに気づいたのだ。ハリーは、緑色に光る石で象嵌ぞうがんされた、蛇のようにくねったの字を見た。岩の上にとぐろを巻く小さな蛇の姿を想像するのは容易なことだった。
「だめだ」ロンが言った。「開けるな だめだ ほんとにダメ」
「どうして」ハリーが聞いた。「こんなやつ、片付けてしまおう。もう何か月も――」
「できないよ、ハリー、僕、ほんとに――君がやってくれ――」
「でも、どうして」
「どうしてかって、僕、そいつが苦手なんだ」
ロンは岩に置かれたロケットから後退あとずさりしながら言った。
「僕には手に負えない ハリー、僕があんなふうな態度を取ったことに言い訳するつもりはないんだけど、でもそいつは、君やハーマイオニーより、僕にもっと悪い影響を与えるんだ。そいつは僕につまらないことを考えさせた。どっちにせよ僕が考えていたことではあるんだけど、でも、何もかもどんどん悪い方向に持っていったんだ。うまく説明できないよ。それで、そいつを外はずすとまともに考えることができるんだけど、またそのクソッタレを掛かけると――僕にはできないよ、ハリー」
ロンは剣つるぎを脇わきに引きずり、首を振ふりながら後あと退ずさりした。
「君にはできる」ハリーが言った。「できるんだ 君はたったいま剣を手に入れた。それを使うのは君なんだってことが、僕にはわかるんだ。頼むから、そいつをやっつけてくれ、ロン」
名前を呼ばれたことが、刺し激げき剤ざいの役目を果たしたらしい。ロンはゴクリと唾つばを飲み込み、高い鼻からはまだ激はげしい息遣いきづかいが聞こえたが、岩のほうに近づいていった。