「ロン」
ハリーは大声で呼びかけたが、いまやリドル‐ハリーがヴォルデモートの声で話しはじめ、ロンは催さい眠みん術じゅつにかかったようにその顔をじっと見つめていた。
「なぜ戻った 僕たちは君がいないほうがよかったのに、幸せだったのに、いなくなって喜んでいたのに……二人で笑ったさ、君の愚おろかさを、臆病おくびょうさを、思い上がりを――」
「思い上がりだわ」リドル‐ハーマイオニーの声が響ひびいた。
本物のハーマイオニーよりもっと美しく、しかももっと凄すごみがあった。ロンの目の前で、そのハーマイオニーはゆらゆら揺れながら高笑いした。ロンは、剣をだらんと脇わきにぶら提さげ、怯おびえた顔で、しかし目が離はなせずに金縛かなしばりになって立ちすくんでいた。
「あなたなんかに誰も目もくれないわ。ハリー・ポッターと並んだら、誰があなたに注目するというの『選えらばれし者もの』に比べたら、あなたは何をしたというの『生き残った男の子』に比べたら、あなたはいったい何なの」
「ロン、刺させ、刺すんだ」
ハリーは声を張り上げた。しかしロンは動かない。大きく見開いた両目に、リドル‐ハリーとリドル‐ハーマイオニーが映うつっている。二人の髪かみは炎のごとくメラメラと立ち上り、目は赤く光り、二人の声は毒々しい二に重じゅう唱しょうを奏かなでていた。
「君のママが打ち明けたぞ」
リドル‐ハリーがせせら笑い、リドル‐ハーマイオニーは嘲あざけり笑った。
「息子にするなら、僕のほうがよかったのにって。喜んで取り替かえるのにって……」
「誰だって彼を選ぶわ。女なら、誰があなたなんかを選ぶ あなたはクズよ、クズ。彼に比べればクズよ」
リドル‐ハーマイオニーは口ずさむようにそう言うと、蛇へびのように体を伸ばして、リドル‐ハリーに巻きつき、強く抱きしめた。二人の唇くちびるが重なった。
宙ちゅうに揺れる二人の前で、地上のロンの顔は苦悶くもんに歪ゆがんでいた。震ふるえる両腕で、ロンは剣を高く振ふりかざした。
「やるんだ、ロン」ハリーが叫さけんだ。
ロンがハリーに顔を向けた。ハリーは、その両目に赤い色が走るのを見たように思った。
「ロン――」
剣つるぎが光り、振ふり下ろされた。ハリーは飛び退のいて剣を避よけた。鋭い金属音と長々しい叫び声がした。ハリーは雪に足を取られながらくるりと振り向き、杖つえを構えて身を守ろうとした。しかし戦う相手はいなかった。
自分自身とハーマイオニーの怪物版は、消えていた。剣をだらりと提さげたロンだけが、平らな岩の上に置かれたロケットの残骸ざんがいを見下ろして立っていた。
ゆっくりと、ハリーはロンのほうに歩み寄った。何を言うべきか、何をすべきか、わからなかった。ロンは荒い息をしていた。両目はもう赤くはない。いつものブルーの目だったが、涙に濡ぬれていた。