ハリーは見なかったふりをして屈かがみ込み、破壊はかいされた分ぶん霊れい箱ばこを拾い上げた。ロンは二つの窓のガラスを貫いていた。リドルの両眼は消え、染しみのついた絹の裏地うらじが微かすかに煙を上げていた。分霊箱の中に息づいていたものは、最後にロンを責め苛さいなんで、消え去った。
ロンの落とした剣が、ガチャンと音を立てた。ロンはがっくりと膝ひざを折り、両腕で頭を抱えた。震ふるえていたが、寒さのせいではないことが、ハリーにはわかった。ハリーは壊こわれたロケットをポケットに押し込み、ロンの脇わきに膝をついて、片手をそっとロンの肩に置いた。ロンがその手を振り払わなかったのは、よい徴しるしだと思った。
「君がいなくなってから――」
ハリーは、ロンの顔が隠れているのをありがたく思いながら、そっと話しかけた。
「ハーマイオニーは一週間泣いていた。僕に見られないようにしていただけで、もっと長かったかもしれない。互いに口もきかない夜がずいぶんあった。君が、いなくなってしまったら……」
ハリーは最後まで言えなかった。ロンが戻ってきたいまになって、ハリーは初めて、ロンの不在がハーマイオニーとハリーの二人にとってどんなに大きな痛手だったかが、はっきりわかった。
「ハーマイオニーは、妹みたいな人なんだ」ハリーは続けた。「妹のような気持で愛しているし、ハーマイオニーの僕に対する気持も同じだと思う。ずっとそうだった。君には、それがわかっていると思っていた」
ロンは答えなかったが、ハリーから顔を背そむけ、大きな音を立てて袖そでで洟はなをかんだ。ハリーはまた立ち上がり、数メートル先に置かれていたロンの大きなリュックサックまで歩いていった。溺おぼれるハリーを救おうと、ロンが走りながら放ほうり投げたのだろう。ハリーはそれを背負い、ロンのそばに戻った。ロンはよろめきながら立ち上がって、ハリーが近づくのを待っていた。泣いた目は真っ赤だったが、落ち着いていた。
「すまなかった」ロンは声を詰まらせて言った。「いなくなって、すまなかった。ほんとに僕は、僕は――ん――」
ロンは暗闇くらやみを見回した。どこかから自分を罵倒ばとうする言葉が襲おそってくれないか、その言葉が自分の口を突いて出てきてくれないか、と願っているようだった。
「君は今晩、その埋め合わせをしたよ」ハリーが言った。「剣つるぎを手に入れて。分ぶん霊れい箱ばこをやっつけて。僕の命を救って」
「実際の僕よりも、ずっとかっこよく聞こえるな」ロンが口ごもった。
「こういうことって、実際よりもかっこよく聞こえるものさ」ハリーが言った。「そういうものなんだって、もう何年も前から君に教えようとしてたんだけどな」
二人は、同時に歩み寄って抱き合った。ハリーは、まだぐしょぐしょのロンの上着の背を、しっかり抱きしめた。
「さあ、それじゃ――」
互いに相手を離はなしながら、ハリーが言った。
「あとはテントを再発見するだけだな」