「どうやって話をつけたんだ」
「僕は、スタン・シャンパイクだって言った。最初に思い浮かんだんだ」
「それで、そいつらは信じたのか」
「最高に冴さえてるっていう連中じゃなかったしね。一人なんか、絶対にトロールが混じってたな。臭くさいの臭くないのって……」
ロンはちらりとハーマイオニーを見た。ちょっとしたユーモアで、ハーマイオニーが和やわらいでくれることを期待したのは明らかだった。しかし、固結かたむすびの手足の上で、ハーマイオニーの表情は、相変あいかわらず石のように硬かたかった。
「とにかく、やつらは、僕がスタンかどうかで口論を始めた。正直言って、お粗末そまつな話だったな。だけど相手は五人、こっちは一人だ。それに僕は杖つえを取り上げられていたし。そのとき二人が取っ組み合いの喧嘩けんかを始めて、ほかの連中がそっちに気を取られている隙すきに、僕を押さえつけていたやつの腹にパンチを噛かまして、そいつの杖を奪うばって、僕の杖を持ってるやつに『武ぶ装そう解除かいじょ』をかけて、それから『姿すがたくらまし』したんだ。それがあんまりうまくいかなくて、また『ばらけ』てさ――」
ロンは右手を挙あげて見せた。右手の爪つめが二枚なくなっていた。ハーマイオニーは冷たく眉まゆを吊つり上げた。
「――それで僕、君たちがいた場所から数キロも離はなれた場所に現れた。僕たちがキャンプしていたあの川岸まで戻ってきたときには……君たちはもういなかった」
「うわー、なんてわくわくするお話かしら」
ハーマイオニーは、ぐさりとやりたいときに使う高たか飛び車しゃな声で言った。
「あなたは、そりゃ怖こわかったでしょうね。ところで私たちはゴドリックの谷に行ったわ。えーと、ハリー、あそこで何があったかしら ああ、そうだわ、『例のあの人』の蛇へびが現れて、危あやうく二人とも殺されるところだったわね。それから『例のあの人』自身が到着して、間かん一いっ髪ぱつのところで私たちを取り逃がしたわ」
「えーっ」
ロンはぽかんと口を開けて、ハーマイオニーからハリーへと視線を移したが、ハーマイオニーはロンを無視した。
「指の爪がなくなるなんて、ハリー、考えても見て それに比べれば、私たちの苦労なんてたいしたことないわよね」
「ハーマイオニー」ハリーが静かに言った。「ロンはさっき、僕の命を救ったんだ」
ハーマイオニーは聞こえなかったようだった。
「でも、一つだけ知りたいことがあるわ」
ハーマイオニーは、ロンの頭上三十センチも上のほうをじっと見つめたままで言った。
「今夜、どうやって私たちを見つけたの これは大事なことよ。それがわかれば、これ以上会いたくもない人の訪問を受けないようにできるわ」
ロンはハーマイオニーをにらみつけ、それからジーンズのポケットから、何か小さな銀色の物を引っ張り出した。
「これさ」
ハーマイオニーは、ロンの差し出した物を見るために、ロンに目を向けざるをえなかった。
「『灯ひ消けしライター』」
驚きのあまり、ハーマイオニーは冷たく厳きびしい表情を見せるのを忘れてしまった。