ハーマイオニーの怒りが一夜にして収まるとは、ハリーも期待していなかった。だから、翌日の朝、ハーマイオニーが怖こわい目つきをしたり、当てつけがましく黙だまり込んだりして意思表示をすることに、別に驚きはなかった。それに応えてロンも、ハーマイオニーがいるところでは後こう悔かいし続けていることを形に現すために、ロンらしくもないきまじめな態度をかたくなに守っていた。事実、三人でいるとハリーは、ただ一人自分だけが会かい葬そう者しゃの少ない葬式で哀あい悼とうの意を表していない人間のような気がした。しかしロンは、ハリーと二人だけになる数少ない機会を得ると――水を汲くみに行くとか、下生したばえの間にキノコを探すとか――破は廉れん恥ちなほどに陽気になった。
「誰かが僕たちを助けてくれたんだ」ロンは何度もそう言った。「その人が、あの牝鹿めじかをよこしたんだよ。誰か味方がいるんだ。分ぶん霊れい箱ばこ、一いっ丁ちょ上がりだぜ、おい」
ロケットを破壊はかいしたことで意を強くした三人は、ほかの分霊箱の在あり処かを話し合いはじめた。これまで何度も話し合ったことではあったが、楽観的になったハリーは、最初の突とっ破ぱ口こうに続いて次々と進展があるに違いないと感じていた。ハーマイオニーがすねていても、ハリーの高こう揚ようした気持は損そこなえなかった。突然運が向いてきたこと、不思議な牝鹿が現れたこと、グリフィンドールの剣つるぎを手に入れたこと、そして何よりロンが帰ってきた大きな幸福感で、ハリーは、笑顔を見せずにはいられなかった。
午後遅く、ハリーはロンと一緒に、不ふ機き嫌げんなハーマイオニーの御おん前まえからまた退出させていただき、クロイチゴの実を探すという口実で、何もない生いけ垣がきの中にありもしない実を漁あさりながら、引き続き互いのニュースを交換し合った。最初にハリーが、ゴドリックの谷で起こった詳しょう細さいを含めてハーマイオニーと二人の放ほう浪ろうの旅のすべてを話し終え、つぎにロンが、二人と離はなれていた何週かの間に知った魔法界全体のことをハリーに話した。
「……それで、君たちは、どうやって『禁句きんく』のことがわかったんだ」
マグル生まれたちが魔法省から逃れるために、必死に手を尽くしているという話をしたあとで、ロンがハリーに聞いた。
「何のこと」
「君もハーマイオニーも、『例のあの人』の名前を言うのをやめたじゃないか」
「ああ、それか。まあね、悪い癖くせがついてしまっただけさ」ハリーが言った。「でも、僕は、名前を呼ぶのに問題はないよ。ヴォ――」
「ダメだ」ロンの大声で、ハリーは思わず生垣に飛び込んだ。
テントの入口で、本に没ぼっ頭とうしていたハーマイオニーは、怖い顔で二人をにらんだ。
「ごめん」ロンは、ハリーをクロイチゴの茂みから引っ張り出しながら謝あやまった。
「でもさ、ハリー、その名前には呪のろいがかかっているんだ。それで追つい跡せきするんだよ。その名前を呼ぶと、保ほ護ご呪じゅ文もんが破れる。ある種の魔法の乱れを引き起こすんだ――連中はその手で、僕たちをトテナム・コート通りで見つけたんだ」