「僕たちが、その名前を使ったから」
「そのとおり なかなかやるよな。論理的だ。『あの人』に対して真剣に抵てい抗こうしようとする者だけが、たとえばダンブルドアだけど、名前で呼ぶ勇気があるんだ。だけど連中がそれを『禁句きんく』にしたから、その名を言えば追つい跡せき可能なんだ――騎き士し団だんのメンバーを見つけるには早くて簡単な方法さ キングズリーも危あやうく捕まるとこだった――」
「嘘うそだろ」
「ほんとさ。死し喰くい人びとの一団がキングズリーを追いつめたって、ビルが言ってた。でも、キングズリーは戦って逃げたんだ。いまでは僕たちと同じように、逃亡中だよ」
ロンは杖つえの先で、考え深げに顎あごをかいた。
「キングズリーが、あの牝鹿めじかを送ったとは思わないか」
「彼の守しゅ護ご霊れいはオオヤマネコだ。結婚式で見たの、覚えてるだろ」
「ああ、そうか……」
二人はなおも生いけ垣がきに沿って、テントからそしてハーマイオニーから離れるように移動した。
「ハリー……ダンブルドアの可能性があるとは思わないか」
「ダンブルドアがどうしたって」
ロンは少しきまりが悪そうだったが、小声で言った。
「ダンブルドアが……牝鹿とか だってさ……」ロンは、ハリーを横目でじっと見ていた。「本物の剣つるぎを最後に持っていたのはダンブルドアだ。そうだろ」
ハリーはロンを笑えなかった。質問の裏にあるロンの願いが、痛いほどわかったからだ。ダンブルドアが実はどうにかして三人のところに戻ってきて、三人を見守っている。そう考えると、何とも表現しがたい安心感が湧わく。しかし、ハリーは首を横に振った。
「ダンブルドアは死んだ」ハリーが言った。「僕はその場面を目もく撃げきしたし、亡なき骸がらも見た。間違いなく逝いってしまったんだ。いずれにせよダンブルドアの守護霊は、不ふ死し鳥ちょうだ。牝鹿じゃない」
「だけど、守護霊は変わる、違うか」ロンが言った。「トンクスのは変わった、だろ」
「ああ。だけど、もしダンブルドアが生きてるなら、どうして姿を現さないんだ どうして僕たちに剣を手渡さないんだ」
「そんなの、わかるわけないよ」ロンが言った。「生きているうちに君に剣を渡さなかったのと、同じ理由じゃないかな 君に古いスニッチを遺のこして、ハーマイオニーには子どもの本を遺したのと同じ理由じゃないか」
「その理由って何だ」ハリーは答えほしさに、ロンを真正面から見た。
「さあね」ロンが言った。「僕さ、ときどきいらいらしてたまんないときなんかに、ダンブルドアが陰で笑ってるんじゃないかって思うことがあったんだ。それとも――もしかしたら、わざわざ事を難しくしたがってるだけなんじゃないかって。でもいまは、そうは思わない。『灯ひ消けしライター』を僕にくれたとき、ダンブルドアにはすべてお見通しだったんだ。そうだろ ダンブルドアは――えーと」
ロンの耳が真っ赤になり、急に足元の草に気を取られたように、爪つま先さきでほじり出した。
「――ダンブルドアは、僕が君を見捨てて逃げ出すことを知ってたに違いないよ」
「違うね」ハリーが訂てい正せいした。「ダンブルドアは、君がはじめからずっと戻りたいと思い続けるだろうって、わかっていたに違いないよ」