「昔々、三人の兄弟がさびしい曲がりくねった道を、夕暮れ時に旅していました――」
「真夜中だよ。ママが僕たちに話して聞かせるときは、いつもそうだった」
両腕を頭の後ろに回し、体を伸ばして聞いていたロンが言った。ハーマイオニーは、邪魔じゃましないで、という目つきでちらりとロンを見た。
「ごめん、真夜中のほうが、もうちょっと不気味だろうと思っただけさ」
「うん、そりゃあ、僕たちの人生には、もうちょっと恐怖が必要だしな」ハリーは思わず口走った。ゼノフィリウスはあまり注意して聞いていない様子で、窓の外の空を見つめていた。
「ハーマイオニー、続けてよ」
「やがて兄弟は、歩いては渡れないほど深く、泳いで渡るには危険すぎる川に着きました。でも三人は魔法を学んでいたので、杖つえを一振りしただけでその危なげな川に橋をかけました。半分ほど渡ったところで三人は、フードを被かぶった何者かが行く手をふさいでいるのに気がつきました」
「そして、『死』が三人に語りかけました――」
「ちょっと待って」ハリーが口を挟はさんだ。「『死』が語りかけたって」
「お伽噺とぎばなしなのよ、ハリー」
「そうか、ごめん。続けてよ」
「そして、『死』が三人に語りかけました。三人の新しい獲物えものにまんまとしてやられてしまったので、『死』は怒っていました。というのも、旅人はたいてい、その川で溺おぼれ死んでいたからです。でも『死』は狡こう猾かつでした。三人の兄弟が魔法を使ったことを誉ほめるふりをしました。そして、『死』を免まぬかれるほど賢い三人に、それぞれ褒美ほうびをあげると言いました」
「一番上の兄は戦闘好きでしたから、存在するどの杖よりも強い杖をくださいと言いました。決けっ闘とうすれば必ず持ち主が勝つという、『死』を克こく服ふくした魔法使いにふさわしい杖を要求したのです そこで『死』は、川岸のニワトコの木まで歩いていき、下がっていた枝から一本の杖を作り、それを一番上の兄に与えました」
「二番目の兄は、傲ごう慢まんな男でしたから、『死』をもっと辱はずかしめてやりたいと思いました。そこで、人々を『死』から呼び戻す力を要求しました。すると『死』は、川岸から一個の石を拾って二番目の兄に与え、こう言いました。この石は死者を呼び戻す力を持つであろう」
「さて次に、『死』はいちばん下の弟に何がほしいかと尋たずねました。三番目の弟は、兄弟の中でいちばん謙けん虚きょでしかもいちばん賢い人でした。そして、『死』を信用していませんでした。そこでその弟は、『死』に跡あとを追つけられずにその場から先に進むことができるようなものがほしいと言いました。そこで『死』はしぶしぶ、自分の持ち物の『透とう明めいマント』を与えました」
「『死』が『透明マント』を持っていたの」ハリーはまた口を挟んだ。
「こっそり人間に忍び寄るためさ」ロンが言った。「両腕をひらひら振って、叫さけびながら走って襲おそいかかるのに飽あきちゃうことがあってさ……ごめん、ハーマイオニー」