「ああ、まあ、この場合は、数えきれないほどの証拠しょうこがある」ゼノフィリウスが言った。「秘ひ宝ほうの中でも『ニワトコの杖』はもっとも容易に跡を追える。杖が手から手へと渡る方法のせいだがね」
「その方法って」ハリーが聞いた。
「その方法とは、真に杖の所しょ持じ者しゃとなるためには、その前の持ち主から杖を奪うばわなければならないということだ。『極ごく悪あく人にんエグバート』が『悪人エメリック』を虐殺ぎゃくさつして杖を手に入れた話は、もちろん聞いたことがあるだろうね ゴデロットが、息子のヘレワードに杖を奪われて、自宅の地下室で死んだ話も あの恐ろしいロクシアスが、バーナバス・デベリルを殺して、杖つえを手に入れたことも 『ニワトコの杖』の血の軌跡きせきは、魔法史のページに点々と残っている」
ハリーはハーマイオニーをちらりと見た。顔をしかめてゼノフィリウスを見てはいたが、ハーマイオニーは反対を唱となえなかった。
「それじゃ、『ニワトコの杖』は、いまどこにあるのかなぁ」ロンが聞いた。
「嗚あ呼あ、誰たれぞ知るや」ゼノフィリウスは窓の外を眺ながめながら言った。「『ニワトコの杖』がどこに隠されているか、誰が知ろう アーカスとリビウスのところで、跡あとが途絶えているのだ。ロクシアスを打ち負かして杖を手に入れたのがどちらなのか、誰が知ろう そのどちらかを、また別の誰が負かしたかもしれぬと、誰が知ろう 歴史は、嗚呼、語ってくれぬ」
一瞬いっしゅんの沈ちん黙もくの後のち、ハーマイオニーが切きり口上こうじょうに質問した。
「ラブグッドさん、ペベレル家と『死しの秘宝ひほう』は、何か関係がありますか」
ゼノフィリウスは度肝どぎもを抜かれた顔をし、ハリーは記憶の片かた隅すみが揺ゆすぶられた。しかし、ハリーにはそれが何なのか、はっきりとは思い出せなかった。ペベレル……どこかで聞いた名前だ……。
「なんと、お嬢じょうさん、私はいままで勘かん違ちがいをしていたようだ」
ゼノフィリウスは椅い子すにしゃんと座り直し、驚いたように目玉をぎょろぎょろさせてハーマイオニーを見ていた。
「君を『秘宝の探求たんきゅう』の初心者とばかり思っていた 探求者たちの多くは、ペベレルこそ『秘宝』のすべてを――すべてを――握っていると考えている」
「ペベレルって誰」ロンが聞いた。
「ゴドリックの谷に、その印がついた墓石ぼせきがあったの。その墓の名前よ」ゼノフィリウスをじっと見たまま、ハーマイオニーが答えた。「イグノタス・ペベレル」
「いかにもそのとおり」ゼノフィリウスは、ひとくさり論じたそうに人差し指を立てた。「イグノタスの墓の『死の秘宝』の印こそ、決定的な証拠しょうこだ」
「何の」ロンが聞いた。
「これはしたり 物語の三兄弟とは実在するペベレル家の兄弟、アンチオク、カドマス、イグノタスであるという証拠だ 三人が秘宝の最初の持ち主たちだという証拠なのだ」