「でも、『吟ぎん遊ゆう詩し人じんビードルの物語ものがたり』では、死者は戻りたがらないということだったよね」いま聞いたばかりの話を思い出しながら、ハリーが言った。「ほかにも、石が死者を蘇よみがえらせる話がたくさんあるってわけじゃないだろう」ハリーはハーマイオニーに聞いた。
「ないわ」ハーマイオニーが悲しそうに答えた。「ラブグッドさん以外に、そんなことが可能だと思い込める人はいないでしょうよ。ビードルはたぶん、『賢者けんじゃの石いし』から思いついたんだと思うわ。つまり、不ふ老ろう不ふ死しの石の代わりに、死を逆戻ぎゃくもどしする石にして」
キッチンからの悪臭は、ますます強くなってきた。下着を焼くような臭いだ。せっかくの気持を傷きずつけないようにしたくとも、どれだけゼノフィリウスの料理が食べられるか、ハリーには自信がなかった。
「でもさ、『マント』はどうだ」ロンはゆっくりと言った。「あいつの言うことが正しいと思わないか 僕なんか、ハリーの『マント』に慣れっこになっちゃって、どんなにすばらしいかなんて、考えたこともないけど、ハリーの持っているようなマントの話は、ほかに聞いたことないぜ。絶対確実だものな。僕たち、あれを着てて見つかったことないし――」
「当たり前でしょ――あれを着ていれば見えないのよ、ロン」
「だけど、あいつが言ってたほかのマントのこと――それに、そういうやつだって、二に束そく三さんクヌートってわけじゃないぜ――全部本当だ いままで考えてもみなかったけど、古くなって呪じゅ文もんの効果が切れたマントの話を聞いたことがあるし、呪文で破られて、穴が開いた話も聞いた。ハリーのマントはお父さんが持っていたやつだから、厳げん密みつには新品じゃないのにさ、それでも何て言うか……完かん璧ぺき」
「ええ、そうね、でもロン、石は……」
二人が小声で議論している間、ハリーはそれを聞くともなく聞きながら、部屋を歩き回っていた。螺ら旋せん階かい段だんに近づき、何気なく上を見たとたん、ハリーはどきりとした。自分の顔が上の部屋の天井から見下ろしている。一瞬いっしゅんうろたえたが、ハリーはそれが鏡でなく、絵であることに気づいた。好奇心に駆かられて、ハリーは階段を上りはじめた。
「ハリー、何してるの ラブグッドさんがいないのに、勝手にあちこち見ちゃいけないと思うわ」
しかしハリーはもう、上の階にいた。