ゼノフィリウスは盆を取り落とし、スープ皿が跳ねて砕くだけた。ハリー、ロン、ハーマイオニーは杖つえを抜いた。ゼノフィリウスは、手をポケットに突っ込もうとして、その場に凍こおりついた。そのとたん、印刷機が大きくバーンと音を立て、「ザ・クィブラー」誌がテーブルクロスの下から床に流れ出てきた。印刷機はやっと静かになった。
ハーマイオニーが、杖をラブグッド氏に向けたまま、屈かがんで一冊拾い上げた。
「ハリー、これを見て」
ハリーはごたごたの山の中をできるだけ急いで、ハーマイオニーのそばに行った。「ザ・クィブラー」の表紙には、ハリーの写真とともに「問もん題だい分ぶん子しナンバーワン」の文字が鮮あざやかに書かれ、見出しには賞しょう金きん額がくが書いてあった。
「『ザ・クィブラー』は、それじゃ、論調ろんちょうが変わったということですか」ハリーはめまぐるしく頭を働かせながら、冷たい声で聞いた。「ラブグッドさん、庭に出ていったとき、あなたはそういうことをしていたわけですか 魔法省にふくろうを送ったのですね」
ゼノフィリウスは唇くちびるをなめた。
「私のルーナが連れ去られた」ゼノフィリウスが囁ささやくように言った。「私が書いていた記事のせいで。あいつらは私のルーナを連れていった。どこにいるのか、連中がルーナに何をしたのか、私にはわからない。しかし、私のルーナを返してもらうのには、もしかしたら――もしかしたら――」
「ハリーを引き渡せば」ハーマイオニーが言葉を引き取った。
「そうはいかない」ロンがきっぱり言った。「邪魔じゃまするな。僕たちは出ていくんだから」
ゼノフィリウスは死人のように青ざめ、老ふけて百歳にも見えた。唇が引きつり、凄すさまじい形ぎょう相そうを浮かべている。
「連中はいまにもやって来る。私はルーナを救わなければならない。ルーナを失うわけにはいかない。君たちは、ここを出てはならないのだ」
ゼノフィリウスは、階段で両手を広げた。ハリーの目に、突然、自分のベビーベッドの前で同じことをした母親の姿が浮かんだ。
「僕たちに、手荒なことをさせないでください」ハリーが言った。「どいてください、ラブグッドさん」
「ハリー」ハーマイオニーが悲鳴を上げた。
箒ほうきに乗った人影が窓の外を飛び過ぎた。三人が目を離した隙すきに、ゼノフィリウスが杖つえを抜いた。ハリーは危あやういところで油断に気づき、横っ飛びに跳んで、ロンとハーマイオニーを呪じゅ文もんの通り道から押し退のけた。ゼノフィリウスの「失しっ神しんの呪じゅ文もん」は、部屋を横切ってエルンペントの角つのに当たった。
ものすごい爆ばく発はつだった。部屋が吹っ飛んだかと思うような音だった。木や紙の破片はへん、瓦礫がれきが四方八方に飛び散り、前が見えないほどのもうもうたる埃ほこりであたりが真っ白になった。ハリーは宙に飛ばされ、そのあと床に激げき突とつし、両腕でかばった頭の上に降ふり注ぐ破片で何も見えなくなった。ハーマイオニーの悲鳴、ロンの叫さけび声、そして吐はき気けを催もよおすようなドサッグシャッという金属音が繰り返し聞こえた。吹き飛ばされたゼノフィリウスが、仰向あおむけに螺ら旋せん階かい段だんを落ちていく音だと、ハリーには察しがついた。