ゼノフィリウスは、恐怖と絶望で咽むせび泣いた。あたふたと、あちこち引っかき回すような音がした。ゼノフィリウスが、階段を覆おおう瓦礫がれきをかき分けて、上がってこようとしている。
「さあ」ハリーが囁ささやいた。「ここから出なくては」
ゼノフィリウスが階段を上がろうとするやかましい音にまぎれて、ハリーは瓦礫の中から自分の体を掘り出しはじめた。ロンがいちばん深く埋まっていた。ハリーとハーマイオニーは、ロンが埋まっているところまで、なるべく音を立てないように瓦礫の山を歩いていった。ロンは、両足に乗った重い箪笥たんすを、なんとかして取り除こうとしていた。ゼノフィリウスが叩たたいたり掘ったりする音が、次第に近づいてくる。ハーマイオニーは「浮ふ遊ゆう術じゅつ」でやっとロンを動けるようにした。
「これでいいわ」ハーマイオニーが小声で言った。階段のいちばん上をふさいでいる印刷機が、ガタガタ揺ゆれはじめた。ゼノフィリウスはすぐそこまで来ているようだ。「ハリー、私を信じてくれる」埃ほこりで真っ白な姿のハーマイオニーが聞いた。
ハリーはうなずいた。
「オッケー、それじゃ」ハーマイオニーが小声で言った。「『透とう明めいマント』を使うわ。ロン、あなたが着るのよ」
「僕 でもハリーが――」
「お願い、ロン ハリー、私の手をしっかり握って。ロン、私の肩をつかんで」
ハリーは左手を出してハーマイオニーの手を握った。ロンは『マント』の下に消えた。階段をふさいでいる壊こわれた印刷機は、まだ揺ゆれていた。ゼノフィリウスは、「浮ふ遊ゆう術じゅつ」で印刷機を動かそうとしている。ハリーには、ハーマイオニーが何を待っているのかわからなかった。
「しっかりつかまって」ハーマイオニーが囁ささやいた。「しっかりつかまって……まもなくよ……」
ゼノフィリウスの真っ青な顔が、倒れたサイドボードの上から現れた。
「オブリビエイト 忘れよ」ハーマイオニーはまずゼノフィリウスの顔に杖つえを向けて叫さけび、それから床に向けて叫さけんだ。「デプリモ 沈しずめ」
ハーマイオニーは居間の床に穴を開けていた。三人は石が落ちるように落ちていった。ハリーは、ハーマイオニーの手をしっかり握ったままだった。下で悲鳴が上がり、破れた天井から降ふってくる大量の瓦礫がれきや壊れた家具の雨を避よけて逃げる、二人の男の姿がちらりとハリーの目に入った。
ハーマイオニーが空中で身をよじり、ハリーは、家が崩くずれる轟ごう音おんを耳にしながら、ハーマイオニーに引きずられて再び暗くら闇やみの中に入っていた。