「君はそればっかり言ってるけど、そのうちの一つはありうるぜ」ロンが言った。「ハリーの『透とう明めいマント』――」
「『三人兄弟』の話はお伽噺とぎばなしよ」ハーマイオニーがきっぱりと言った。「人間がいかに死を恐れるかのお話だわ。生き残ることが『透明マント』に隠れると同じぐらい簡単なことだったら、いまごろ私たち、必要なものは全部手にしているはずよ」
「それはどうかな。無敵の杖つえが手に入ればいいんだけど」ハリーは、大嫌いなリンボクの杖を、指でひっくり返しながら言った。
「ハリー、そんな物はないのよ」
「たくさんあったって、君が言ったじゃないか――『死の杖』とか何とか、名前はいろいろだけど――」
「いいわよ、それじゃ、仮に『ニワトコの杖つえ』は実在するって思い込んだとしましょう。でも、『蘇よみがえりの石いし』のほうはどうなるの」
ハーマイオニーは、「蘇りの石」と言うときに、指で「かぎ括弧かっこ」を書き、皮肉たっぷりな言い方をした。
「どんな魔法でも、死者を蘇らせることはできないわよ。これは決定的だわ」
「僕の杖が『例のあの人』の杖とつながったとき、僕の父さんも母さんも現れた……それにセドリックも……」
「でも、本当に死から蘇ったわけじゃないでしょう」ハーマイオニーが言った。「ある種の――ぼんやりした影みたいな姿は、誰かを本当にこの世に蘇らせるのとは違うわ」
「でも、あの話に出てくる女性は、本当に戻ってきたんじゃなかったよ。そうだろう あの話では、人はいったん死ぬと、死者の仲間入りをする。でも、二番目の兄は、その女性を見たし、話もしただろう しかも、しばらくは一いっ緒しょに住んだ……」
ハリーは、ハーマイオニーが心配そうな、何とも形容しがたい表情を浮かべるのを見た。そのあとでハーマイオニーがロンをちらりと見たときに、ハリーはそれが恐怖きょうふの表情だと気がついた。死んだ人たちと一緒に住むという話が、ハーマイオニーを怖こわがらせてしまったのだ。
「それで、ゴドリックの谷に墓のある、あのペベレル家の人のことだけど――」
ハリーは、自分が正気だと思わせるように、きっぱりした声で、急いで話題を変えた。
「その人のこと、何もわからないの」
「ええ」
ハーマイオニーは、話題が変わってほっとしたような顔をした。
「墓石ぼせきにあの印があるのを見たあとで、私、その人のことを調べたの。有名な人か、何か重要なことをした人なら、持ってきた本のどれかに絶対に載のっているはずだと思って。やっと見つけたけど、『ペベレル』っていう名前は、たった一か所しかなかったわ。『生きっ粋すいの貴族きぞく――魔ま法ほう界かい家系かけい図ず』。クリーチャーから借りた本よ」
ロンが眉まゆを吊つり上げたのを見て、ハーマイオニーが説明した。
「男子の血筋ちすじが現在では絶えてしまっている、純血じゅんけつの家系のリストなの。ペベレル家は、早くに絶えてしまった血筋の一つらしいわ」
「男子の血筋が絶える」ロンが繰り返した。
「つまり、氏うじが絶えてしまった、という意味よ」ハーマイオニーが言った。「ペベレル家の場合は、何世紀も前にね。子孫はまだいるかも知れないけど、違う姓を名乗っているわ」