ハリーは、「秘宝」を信じることで、確実に武装ぶそうされたように感じた。「秘宝」を所有すると考えただけで、守られるかのように感じた。ハリーはうれしくなって、二人を振り返った。
「ハリー」
ハーマイオニーがまた呼びかけたが、ハリーは、激はげしく震える指で、首の巾着きんちゃくを開けることに没ぼっ頭とうしていた。
「読んで」
ハリーは、母親の手紙をハーマイオニーの手に押しつけて言った。
「それを読んで ハーマイオニー、ダンブルドアが『マント』を持っていたんだ どうしてそれがほしかったのか、ほかには理由がないだろ ダンブルドアには『マント』なんか必要なかった。強力な『目くらまし術じゅつ』を使って、マントなんかなくとも完全に透とう明めいになれたんだから」
何かが床に落ちて、光りながら椅い子すの下を転がった。手紙を引っ張り出したときにスニッチを落としてしまったのだ。ハリーは屈かがんで拾い上げた。すると、たったいま見つけたばかりのすばらしい発見の泉が、ハリーにまた別の贈り物をくれた。衝撃しょうげきと驚きが体の中から噴ふき出し、ハリーは叫さけんでいた。
「ここにあるんだ ダンブルドアは僕に指輪を遺のこした――このスニッチの中にある」
「そ――その中だって」
ロンがなぜ不意を衝つかれたような顔をするのか、ハリーには理解できなかった。わかりきったことじゃないか、はっきりしてるじゃないか、何もかも当てはまる、何もかもだ……ハリーの「マント」は三番目の「秘宝ひほう」であり、スニッチの開け方がわかったときには二番目の「秘宝」も手に入る。あとは第一の「秘宝」である「ニワトコの杖つえ」を見つければよいだけだ。そうすれば――。
しかし、きらびやかな舞台の幕まくが、そこで突然下りたかのようだった。ハリーの興こう奮ふんも、希望も幸福感も、一いっ挙きょに消えた。輝かがやかしい呪じゅ文もんは破れ、ハリーは一人暗くら闇やみにたたずんでいた。
「やつが狙ねらっているのは、それだ」
ハリーの声の調子が変わったことで、ロンもハーマイオニーもますます怯おびえた顔になった。
「『例のあの人』が、『ニワトコの杖』を追っている」
張りつめた、疑わしげな顔の二人に、ハリーは背を向けた。これが真実だ。ハリーには確信があった。すべての辻つじ褄つまが合う。ヴォルデモートは新しい杖を求めていたのではなく、古い杖を、しかもとても古い杖を探していたのだ。ハリーはテントの入口まで歩き、夜の闇に目を向けて、ロンやハーマイオニーがいることも忘れて考えた……。
ヴォルデモートは、マグルの孤こ児じ院いんで育てられた。ハリー同様、子どものときに誰からも「吟ぎん遊ゆう詩し人じんビードルの物語ものがたり」を聞かされてはいないはずだ。「死の秘宝」を信ずる魔法使いはほとんどいない。すると、ヴォルデモートが秘宝のことを知っているという可能性はあるだろうか