翌朝、三人はテントをたたみ、憂ゆう鬱うつな雨の中を移動した。土ど砂しゃ降ぶりの雨は、その晩テントを張った海岸地方まで追ってきて、ハリーにとっては気の滅め入いるような荒涼こうりょうたる風景を水みず浸びたしにしながら、その週一杯降ふり続いた。ハリーは、「死しの秘宝ひほう」のことしか考えられなかった。まるで胸に炎が点ともされたようで、ハーマイオニーのにべもない否定もロンの頑固がんこな疑いも、その火を消すことはできなかった。しかし、秘宝への想おもいが燃えれば燃えるほど、ハリーの喜びは薄うすれるばかりだった。ハリーは、ロンとハーマイオニーを恨うらんだ。二人の断固たる無関心ぶりが、容よう赦しゃない雨と同じくらいにハリーの意気を挫くじいた。しかしそのどちらもハリーの確信を弱めることはできず、ハリーの信念は絶対的なものだった。「秘宝」に対する信念と憧あこがれがハリーの心を奪うばい、そのため、分ぶん霊れい箱ばこへの執念しゅうねんを持つ二人から孤立こりつしているように感じた。
「執念ですって」
ある晩、ハリーが不用意にその言葉を口にすると、ハーマイオニーが低い、激はげしい声で言った。ほかの分霊箱を探すことに関心がないと、ハーマイオニーがハリーを叱しかりつけたあとのことだった。
「執念に取とり憑つかれているのは私たち二人のほうじゃないわ、ハリー 私たちは、ダンブルドアが私たち三人にやらせたかったことを、やり遂とげようとしているだけよ」
しかし遠回しな批判ひはんなど、ハリーは受けつけなかった。ダンブルドアは、「秘宝」の印をハーマイオニーに遺のこして解かい読どくさせるようにし、また、ハリーには「蘇よみがえりの石いし」を金のスニッチに隠して遺のこしたのだという確信は、揺ゆるぎないものだった。一方が生きるかぎり、他方は生きられぬ……死を制する者……ロンもハーマイオニーも、どうしてそれがわからないのだろう
「『最後いやはての敵なる死もまた亡ぼされん』」ハリーは静かに引用した。
「私たちの戦うはずの敵は『例のあの人』だと思ったけど」ハーマイオニーが切り返した。
ハリーはハーマイオニーを説得するのをあきらめた。