ロンとハーマイオニーが議論したがった銀色の牝鹿めじかの不思議でさえ、いまのハリーにはあまり重要とは思えず、そこそこおもしろいつけ足しの余興よきょうにすぎないような気がした。ハリーにとってもう一つだけ重要なのは、額ひたいの傷きず痕あとがまたチクチク痛み出したことだった。ただし、二人には気づかれないよう、ハリーは全力を尽くした。痛み出すたびにハリーは一人になろうとしたが、そこで見たイメージには失望した。ハリーとヴォルデモートが共有する映えい像ぞうは、質が変わってしまった。焦点しょうてんが合ったり合わなかったりするように、ぼやけて揺れ動いた。髑髏どくろのようなものや、実体のない影のような山などが、朧おぼろげに見分けられるだけだった。現実のような鮮せん明めいなイメージに慣れていたハリーは、この変化に不安を感じた。自分とヴォルデモートとの間の絆きずなが壊こわれてしまったのではないかと心配だった。絆はハリーにとって恐ろしいものであると同時に、ハーマイオニーに対して何と言ったかは別として、大切なものだった。こんなぼんやりした不満足なイメージしか得られないことを、ハリーはなぜか自分の杖つえが折れたことに関係づけ、ヴォルデモートの心を以前のようにはっきり見ることができないのは、リンボクの杖のせいだと思った。
何週間かがじわじわと過ぎ、ハリーが自分の考えに夢中になっているうちに、どうやらロンが指し揮きを執とっていることに気づかされる羽は目めになった。二人を置き去りにしたことの埋め合わせをしようという決意からか、ハリーの熱意のなさが眠っていたロンの指揮能力に活を入れたからか、いまやロンがほかの二人を励はげましたり説とき伏ふせたりして行動させていた。
「分ぶん霊れい箱ばこはあと三個だ」ロンは何度もそう言った。「行動計画が必要だ。さあ、さあ まだ探してないところはどこだ もう一度復習しようぜ。孤こ児じ院いん……」
ダイアゴン横丁よこちょう、ホグワーツ、リドルの館、ボージン・アンド・バークスの店、アルバニアなどなど、トム・リドルのかつての住すみ処か、職場、訪れた所、殺人の場所だとわかっているところを、ロンとハーマイオニーは拾い上げ直した。ハリーは、ハーマイオニーにしつこく言われるので、しかたなく参加した。ハリーは一人黙だまって、ヴォルデモートの考えを読んだり、「ニワトコの杖」についてさらに調べたりしていれば満足だったのに、ロンはますます可能性のなさそうな場所に旅を続けようと言い張った。ハリーには、ロンが単に三人を動かし続けるためにそうしているのだと、わかっていた。
「何だってありだぜ」がロンの口くち癖ぐせだった。「アッパー・フラグリーは魔法使いの村だ。あいつがそこに住みたいと思ったかもしれない。ちょっとほじくりに行こうよ」
こうして魔法使いの領域りょういきを頻ひん繁ぱんに突つき回っているうちに、三人はときどき「人さらい」を見かけることがあった。