ハリーは二人を振り返った。しかし、暗闇くらやみの中では輪郭りんかくしか見えない。ハーマイオニーが杖つえを上げ、テントの外にではなくハリーの顔に向けているのが見えた。バーンという音とともに白い光が炸さく裂れつしたかと思うと、ハリーは激痛げきつうに襲われがっくり膝ひざを折った。何も見えない。両手で覆おおった顔があっという間にふくれ上がっていくのがわかった。同時に、重い足音がハリーを取り囲んでいた。
「立て、虫けらめ」
誰のものともわからない手がハリーを荒々しく引っ張り上げた。抵抗ていこうする間もなく、誰かがハリーのポケットを探り、リンボクの杖を取り上げた。ハリーはあまりの痛さに顔を強く押さえていたが、その指の下の顔は目鼻も見分けがつかないほどふくれ上がり、ひどいアレルギーでも起こしたようにパンパンに腫はれている。目は押しつぶされて細い筋すじのようになり、ほとんど見えない。手荒にテントから押し出された拍子ひょうしにメガネが落ちてしまい、四、五人のぼやけた姿がロンとハーマイオニーを無理やり外に連れ出すのが、やっと見えただけだった。
「放はなせ――その女ひとを――放せ」
ロンが叫さけんだ。まぎれもなく握にぎり拳こぶしで殴なぐりつける音が聞こえ、ロンは痛みにうめき、ハーマイオニーが悲鳴を上げた。
「やめて その人を放して。放して」
「お前のボーイフレンドが俺おれのリストに載のっていたら、もっとひどい目に遭あうぞ」
聞き覚えのある、身の毛のよだつしゃがれ声だ。
「うまそうな女だ……何というご馳走ちそうだ……俺おれは柔らかい肌はだが楽しみでねぇ……」
声の主が誰だかわかり、ハリーは胃袋が宙返った。フェンリール・グレイバック、残忍ざんにんさを買われて、死し喰くい人びとのローブを着ることを許された狼おおかみ人にん間げんだ。
「テントを探せ」別の声が言った。
ハリーは放り投げられ、地べたにうつ伏せに倒れた。ドスンと音がして、ロンが自分の横に投げ出されたことがわかった。足音や物がぶつかり合う音、椅い子すを押し退のけてテントの中を探し回る音がした。
「さて、獲物えものを見ようか」頭上でグレイバックの満足げな声がしたかと思うと、ハリーは仰あお向むけに転がされた。杖灯つえあかりがハリーの顔を照らし、グレイバックが笑った。