誰かがハリーの髪かみの毛をぐいとつかんで立たせ、すぐ近くまで歩かせて地べたに座らせ、ほかの囚とらわれ人びとと背中合わせに縛りはじめた。ハリーはメガネもない上に、腫はれ上がった瞼まぶたの隙間すきまからはほとんど何も見えなかった。縛り上げた男が行ってしまってから、ハリーはほかの捕虜に小声で話しかけた。
「誰かまだ杖つえを持っている」
「ううん」ロンとハーマイオニーがハリーの両脇りょうわきで答えた。
「僕のせいだ。僕が名前を言ったばっかりに。ごめん――」
別な声、しかも聞き覚えのある声が、ハリーの真後ろの、ハーマイオニーの左側に縛られている誰かから聞こえた。
「ハリーか」
「ディーン」
「やっぱり君か 君を捕とらえたことにあいつらが気づいたら―― 連中は『人さらい』なんだ。賞金稼かせぎに、学校に登校していない学生を探しているだけのやつらだ――」
「一晩ひとばんにしては悪くない上がりだ」
グレイバックが、靴底くつぞこに鋲びょうを打ったブーツでハリーの近くをカツカツと歩きながら言った。テントの中から、家捜やさがしする音がますます激はげしく聞こえてきた。
「『穢けがれた血ち』が一人、逃とう亡ぼう中の小鬼こおにが一人、学校を怠なまけているやつが三人。スカビオール、まだ、こいつらの名前をリストと照合しょうごうしていないのか」グレイバックが吠ほえた。
「ああ、バーノン・ダドリーなんてぇのは、見当たらねえぜ、グレイバック」
「おもしろい」グレイバックが言った。「そりゃあ、おもしろい」
グレイバックはハリーのそばに屈かがみ込んだ。ハリーは、腫れ上がった瞼の間のわずかな隙間から、グレイバックの顔を見た。もつれた灰色の髪と頬ほおひげに覆おおわれた顔、茶色く汚れて尖とがった歯、両端りょうたんの裂さけた口が見えた。ダンブルドアが死んだ、あの塔とうの屋上で嗅かいだのと同じ臭いがした。泥どろと汗と血の臭いだ。
「それじゃ、バーノン、お前はお尋たずね者じゃないと言うわけか それとも違う名前でリストに載のっているのかな ホグワーツではどの寮りょうだった」
「スリザリン」ハリーは反はん射しゃ的てきに答えた。
「おかしいじゃねえか。捕まったやつぁみんな、そう言やぁいいと思ってる」スカビオールの嘲あざけり笑いが、薄暗うすぐらいところから聞こえた。「なのに、談話室がどこにあるか知ってるやつぁ、一人もいねえ」
「地下室にある」ハリーがはっきり言った。「壁かべを通って入るんだ。髑髏どくろとかそんなものがたくさんあって、湖の下にあるから明かりは全部緑色だ」
一瞬いっしゅん、間まが空いた。