「ほう、ほう、どうやら本物のスリザリンのガキを捕めえたみてぇだ」スカビオールが言った。「よかったじゃねえか、バーノン。スリザリンには『穢けがれた血ち』はあんまりいねえからな。親父おやじは誰だ」
「魔法省に勤つとめている」
ハリーはでまかせを言った。ちょっと調べれば、嘘うそは全部ばれることがわかっていたが、どうせ時間稼かせぎだ。顔が元通りになれば、いずれにせよ万ばん事じ休きゅうすだ。
「魔ま法ほう事じ故こ惨事さんじ部ぶだ」
「そう言えばよぅ、グレイバック」スカビオールが言った。「あそこにダドリーってやつがいると思うぜ」
ハリーは息が止まりそうだった。運がよければ――運しかないが、ここから無事逃れられるかもしれない
「なんと、なんと」
ハリーは、グレイバックの冷酷れいこくな声に、微かすかな動揺どうようを感じ取った。グレイバックは、本当に魔法省の役人の息子を襲おそって縛しばり上げてしまったのかもしれないと、疑問を感じているのだ。ハリーの心臓が、肋骨ろっこつを縛っているロープを激はげしく打っていた。ハリーは、グレイバックにその動きが見えても不思議はないと思った。
「もし本当のことを言っているなら、醜男ぶおとこさんよ、魔法省に連れていかれても何も恐れることはない。お前の親父が、息子を連れ帰った俺おれたちに、褒美ほうびをくれるだろうよ」
「でも」ハリーは口がからからだった。「もし、僕たちを放はなして――」
「ヘイ」テントの中で叫さけぶ声がした。「これを見ろよ、グレイバック」
黒い影が急いでこっちへやって来た。杖灯つえあかりで、銀色に輝かがやくものが見えた。連中はグリフィンドールの剣つるぎを見つけたのだ。
「すーっげえもんだ」
グレイバックは仲間からそれを受け取って、感心したように言った。
「いやあ、立派なもんだ。ゴブリン製らしいな、これは。こんな物をどこで手に入れた」
「僕のパパのだ」ハリーは嘘をついた。だめもとだったが、暗いので、グレイバックには柄つかのすぐ下に彫ほってある文字が見えないことを願った。「薪まきを切るのに借りてきた――」
「グレイバック、ちょっと待った これを見てみねぇ、『予よ言げん者しゃ』をよ」
スカビオールがそう言ったそのとき、ハリーのふくれ上がった額ひたいの引き伸ばされた傷痕きずあとに激痛が走った。現実に周囲にあるものよりもっとはっきりと、ハリーはそびえ立つ建物を見た。人を寄せつけない、真っ黒で不気味な要塞ようさいだ。ヴォルデモートの想念そうねんが、急にまた鮮明せんめいになった。巨大な建物に向かって滑すべるように進んでいくヴォルデモートは、陶とう酔すい感かんを感じながら冷静に目的を果たそうとしている……。
近いぞ……近いぞ……
意志の力を振りしぼり、ハリーはヴォルデモートの想念に対して心を閉じ、いまいる現実の場所に自分を引き戻した。ハリーは、暗闇くらやみの中でロン、ハーマイオニー、ディーン、グリップフックたちと一緒いっしょに縛しばりつけられ、グレイバックとスカビオールの声を聞いていた。